最終章

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『竜也君はきっとカッコよくなるよ』 『竜也は真面目だよね』 『竜也さんはちゃんとした仕事に就けるよ』 ずっとそう言われて、ずっと期待されていた。僕には本当の親はもういない。きっと生者の世界に行ってしまったんだろう。両親として僕を育ててくれた大人たちは決して良い人とは言えなかった。でも、ちゃんと幼稚園や小学校には行かせてもらっていた。今も一応中学校には行かせてもらっている。だけど、その学校も楽しいとは言い難かった。友達と呼べるような人がいなかったから。けど彼だけは、芳川宙良だけは違った。僕のこともちゃんと尊重してくれて、でも自分のことも大事にしていて。僕にはまるで真似できないような人だった。だけど彼の家には虐待があった。僕が彼の家に行くと、彼の両親は笑顔で迎えてくれた。だけど、忘れ物をして戻ろうとしたら、彼が彼の両親に殴られているのを見た。それを見てから僕は大人という他人が嫌いになった。 中学生になって彼とも同じクラスになれて、少しは変わって楽しくなると思っていた。だけど、彼の両親の虐待は収まるわけもなく、僕は何も出来なかった。 そんな毎日を過ごしていくうちに、彼は沢山の大人に評価されていって、僕はそれをただ見ているだけだった。 そんな時、ふと見たクラスの担任の瞳の奥に何か黒いのが見えた。あれは何なのか、彼に聞くと「先生の闇だよ」って言われた。その日から僕はいろんな人の瞳を見るようにした。けど、最近になって気付いた、あの瞳の闇には共通点があって、闇のある人は消えて生者の世界に行ってしまう。 もし、あの時の彼女の言葉が本当ならば僕も生者の世界に行けるのに、どうして消えないのだろうか。 しばらくして、また彼女が現れた。 「どう、少しは考えた?」 「うん、君の言っていることが本当なら僕も彼と同じ世界に行けるってこと」 正解、と微笑みながら言った。すると彼女は手を差し出してきた。疑問に思いながら彼女の手を取った。 「何、どうしたの」 行きたいんでしょ、と当たり前のように彼女は答えた。
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