序章

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「生きていく上で、このようなことを考えてしまう。それさえもまた、人間のよく分からない仕組みの一つだと言えるでしょう。」 これで発表を終わります。という言葉と共に、盛大な拍手が彼には送られる。この拍手に込められた心は決して良いものとは言い難いのだろう。 物心がついた頃にはもうこんな考え方になっていた。人間なんて無駄な生き物、居なくたって変わらない、なんていうわけもわからない言葉。大人には分かって貰えなかったこと。だからといって、同い年の他人に分かって貰えたというわけでもないが。 彼の発表が終わり、僕は蒸し暑い建物の裏口から彼を迎えに行った。当たり前の如く、彼の周りに沢山の大人で埋め尽くされていた。僕はそんな彼を遠目から見ているしかできない。しばらくして、大人たちも少なくなっていき、彼の姿も見えてきた。すると彼も僕の存在に気付いたのだろう。大きな花束を持って駆け寄ってきた彼は、昔と変わらない真っ直ぐな瞳だった。 「ありがとう、迎えに来てくれて」 聞き心地の良い優しく真っ直ぐな声。しかし、少し声が掠れていた。やはり発表という場で大きな声を出したからだろうか。 「うん、無理しないでね。声なくなっちゃうから。」 「うん、分かった。」
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