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第一章
彼とはもう十年の仲だ。彼はいつも真面目で静かで僕とは正反対だった。大人に褒められても自慢なんかせず、僕が大人に叱られたらそっと寄り添ってくれた。出会ったのはまだ二、三歳くらいだった。気付けばもう中学生か、なんて笑いながら今ここにいる。彼はなんでも出来るんだ。全教科オール五で、大人たちからの評判も良いみたいで、今日もこんなに大掛かりな発表会のようなものもしてもらえている。
僕には未だに何もない。だからこそ、あの沢山の大人がいるところには僕は入れない。まるで虫でも見ているかのような目で見られるから。
「今日も花貰ったんだね」
こんな発表会のようなものをすると、必ず大人から花束を貰っている。だから彼の家は花屋かと思わんばかりの量の花がある。花好きの僕からするとかなり嬉しいが、彼は別に何か好きなものがあるわけでもなかった。
「うん、有難いよね。でも竜也は?」
「え?僕は、いいよ。やりたいこともないし」
そう、彼にはやりたいことがあるからこんなに出来るんだ。僕にはやりたいことも、好きなことも特にないし。彼はそっか、と少し無愛想に言った。「別に無いけどな、僕だって」彼は小さな声で言った。
「ん、何か言った?」
別に、と言った彼の瞳の奥にはどこか闇を感じた。
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