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「また明日もよろしくね!」
彼はいつも同じ笑顔で手を振っている。彼の泣き顔や怒った顔は十年も一緒にいたのに見たことがない。彼は必ず何かを隠している。それは分かっている、だけどその隠し事が分からないままなのが僕は嫌なんだ。でも、だからといって彼にすぐ聞けるわけもなく、未だに聞けないままなんだ。
「ただいま」
返事がないのはいつものことだけど、今日はやけにうるさかった。多分、リビングで大人が喧嘩しているのだろう。今日は静かにしておこう。
「なんでこっちに来ないんだよ」
え、と声が出そうになったところで口をハンカチで押さえられた。
気付けばリビングから見える窓の明かりは赤くなっていた。起き上がろうとしても、体が動かなかった。大人はいない、きっと僕をほっといて出掛けたんだろう。少し寝れば、きっと起き上がれるだろう。少し横に寝返りを打った。途端に体中に激痛が走った。その衝撃と共に起き上がることが出来た。しかし、体中の痛みは治らなかった。きっと殴られたのだろう、腕を見るだけでも痣らしき赤い痕が残っていた。きっと大人に殴られたんだ。そう思うことで少し安心した。こんなことは日常茶飯事だったから。
痛みを少し我慢して立ち上がり辺りを見回すとリビングは荒れていた。やはり喧嘩らしきものをしていたんのか、と思う他ない。きっと大人たちが出掛けたのなら明日の朝まで帰ってこないと思い、僕はダイニングのボロボロの椅子に座ろうとした途端椅子が壊れた。あんなボロボロなんだ、当たり前だろと思いながら床に座り直した。
一息付くと立ち上がり、リビングを出て押し入れに入ってあるはずの救急箱を出そうとしたら、やはりなかった。きっと大人たちが捨てたんだ。そう思いながら二階に上がり、床に落ちている包帯を手に取り腕に巻き付けた。
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