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第二章
雨が降り頻る真夏の昼間は湿気っぽい。そんな中でも彼は大人を前にして堂々と立っている。僕には到底敵わない存在だけど、彼は僕を信じてくれる。だから、僕も彼を信じて見守ってやる。
「僕はまだ中学生で、人間社会をしっかりと見たことはありません。ですが、想像することは出来ます。そんな僕が想像した人間社会はまるで汚いものだと思います。実際のところはよく分かりませんが、今まで僕が見てきた人間社会はこんなものです。別に、こんな世界ならなくてもいいと思っています。しかし、僕のやるべきことはこんな世界をもっと良くすることです。だから、僕は今まで考えてきました。ですが、やはりこんな子供に考えてもきっと本当に信じてくれる大人はいないと思いますが、僕には一人、心の底から信じられる人がいます。」
それからも彼の発表は続いた。僕は目頭が熱くなってくるのが分かった。
彼の発表は十分くらいで終わった。僕は湿気のすごい建物の裏口から彼のいる場所に向かった。やはり彼の周りには沢山の大人で埋め尽くされていた。雨の中よくやるな、なんて思いながら僕は彼を待った。しばらくすると、彼は僕の方に向かって走ってきた。朝あんなになっていたというのによく走れるな、なんて思う。
「今日もありがとう、竜也も疲れるでしょ」
一瞬彼の言ってることが分からなかったが、いつも通りの返事をした。
「ううん、今日のは今までで一番良かった」
そんなことないよ、と彼は少し照れながら言った。でも、最近彼の瞳の奥に闇がよく見えるようになった。ほら、今だって黒くなってる。
「でも今日は大丈夫、一人で帰るんだ」
「そっか、分かった」
またね、とお互い手を振りながら反対の方向に帰っていった。
しばらくしてから気付いた。彼の家はあちらではないということに。
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