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「ただいま」
今日は珍しく、まだ大人たちは帰っていない。彼と別れてからしばらく考えていた。彼は何故あちらの方向に帰っていったのか。何か用事があったのか、それとも家に帰りたくないのか。それなら僕に言ってくれれば良いのに。
無駄に静かなリビングに嫌気が差してテレビを付けた。しばらく眺めていると、殺人事件のニュースを知らせていた。その事件はまだ僕と同い年の中学生が起こした殺人事件だった。まだ未成年ということで名前と顔は出されなかった。しかし、殺された他人の情報は出ているみたいだ。殺された他人の名前は、
紛れもない、この家の大人たちだった。
僕の背中に寒気が走った。僕の考えていたことが現実になってしまったらしい。
僕はすぐに家を飛び出た。事件現場はあの家の大人たちの職場のすぐ近くの廃校になって学校のゴミ捨て場だとニュースでは言っていた。僕はあの大人たちが死んだことに対しては喜んでも悲しんでもない。僕はただ彼があの大人たちを殺めてしまったのではないかという不安だった。もし本当にそうなのだとしたら、僕はこれからどうしていけばいいのか分からない。だからせめて、彼に聞きたかった。何故こんなことをしたのか、と。
長いこと走っていた。やっと着いた廃校の周りには雨が降っているというのに、沢山の野次馬がいた。パトカーの音が耳鳴りのようにうるさかった。他人の騒めきに視界がぼやけて見える。一人、傘も差さずに立っている僕は、少し異様な人間だった。沢山の他人を掻き分けながらあの大人たちが捨てられていたゴミ捨て場に向かった。警察官や刑事は異様なものを見るような目で僕を見ている。僕は躊躇わずに聞いた。
「この他人たちを殺した中学生は、どんな人でしたか」
刑事は少し困ったような目で周りを見渡した。すると、何か分かったかのように僕に言った。
「君、"ご両親"はどこにいるの?」
その言葉を聞いた途端、僕の頭は何か刺さったような激痛に襲われた。
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