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白い壁に昨夜の撮影された現場映像がモニターに流されている。
施設内の監視カメラ映像に加え装着していたゴーグルカメラで録画されていたものが終わると一通り目を通した後白い軍服に似た制服の女性は振り返り腕組みしたままこちらを睨んだ。
長い白髪を結い上げ、すらりと伸びた足はスリットが入ったパンツに細い足首が見える。確か今年で御年64だったか、スタイルは抜群にいい。元々は自衛隊の指令補佐をしていたとか、ガーディアンの入隊式以来に見た為思わずまじまじと見つめると眼鏡で隠れた瞳は細くなる。こども庁管轄義務教育兼保育施設の
国家児童保護職員のうち唯一鎮圧抑制行為も許されている特殊警備部隊総括司令官である柳葉 雅だ。
「それで、自分がなぜ呼ばれたのかわかっているかな。 新生児護衛保護特殊送迎部隊、第一班四席」
映像が止まり、音声の無い指令室に声が響く。自分の呼び名を呼ばれ、肩幅開いていた足を揃えると手は背後で組んだままそれに答える。
「クソなどと暴言を吐いたからでしょうか。それともババアが原因でしたら言ったのは二席の方です。」
そう言いつつ隣に立つフタツメを横目で見る。微動だにしないがゴーグルを外した目が細くなり、マスクの下で顔がひきつってるのが分かる。
「そうだな。確かにババアと言ったのも護衛車の後部ドアを開けたのもフタツメ、君だな。」
司令官に一睨みされフタツメはさっと姿勢を整えると首を前方へと傾ける。
「しかし、だ。どのようなことがあろうが保護対象から離れたのは君も同じだ。そうじゃないか?」
今度は言い返すジョーダンも浮かばずに頭を下げた。もちろん自分の責任は分かってる、ちょっとふざけただけだ。
「よって、君たち三人を送迎部隊より外す。」
「は?」
声が出たのは隣からで、フタツメが大きく目を見開いたまま繰り返した。
「外すだって?!」
発言を許されていない立場で上官に不満をぶつけるなど兵士にはあってはならない。
本来ならばその場で除隊処分だ。
それでもフタツメは柳葉に食って掛かる。
「ふざけんな!何が不満なんだ、赤ん坊は保護しただろうがよ。例えあの女が赤子を抱き上げていたとしても俺は女だけを撃てる!
赤ん坊を傷つけることはしねぇ!」
指令室にフタツメの怒声が響き渡る。
柳葉が荒々しく息をはくフタツメに歩み寄ると鋭い視線を向けた。
「確かにお前ほどの腕なら母親だけを打ち抜くことは出来るだろう。ヒトツメである巓班長でも撃てたのだから。
だからなんだ?フタツメ」
カツンカツン 甲高い音を立てながら歩み寄ると柳葉はフタツメの前に立ち組んでいた腕を下ろす。
「赤子を汚すこと無く連れ帰るのがお前らの仕事だろう。外界の手に国の宝を触れさせるな!」
指令とは兵士にとっての絶対。
有無を言わせぬ権限はその気迫からも生まれる。巓班長とは違った柳葉の気迫は母と子の絶対的な上下関係に似ている。
力では勝てるかもしれないこの老婆に逆らえるものはおそらくいない。
「...発言してもよろしいでしょうか」
拳を握りしめ怒りに震えながらも無言を通すフタツメを横目に柳葉の許可をもらい気になっていた事を口に出す。
「今、三人とおっしゃいましたが」
「無論、責任者である巓班長には辞めてもらう。今後、一切の特殊任務への参加を禁止。一ヶ月の停職の後ガーディアン養成の職についてもらう」
つまりは左遷。いや引退か。
「君達二人にはガーゴイルとして一ヶ月外壁の守備についてもらう。その後元の班に戻すかは協議する」
話は以上だと言葉を結び退室を促され、部屋を出た。
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