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壁の建設以降、それは分けられた。
まるでおとぎ話のピーターパンのように
ネバーランドは子供の為の世界。
外は大人の国。
幼稚園から高校まで義務化され中へと移設、外には大学と専門学校はあるが幼少期の教育は全てネバーランドの中にある。
子供向けのおもちゃに服、生活用品もまた外では手に入りにくく見つかれば捜査対象になる。
子供の姿はほとんど消えた。
だが、これは大人たちの望んだ姿なのだ。
子供の声が騒音だと。
子供の遊びを迷惑行為だと騒ぎ立て、子供の居場所を奪っていった大人たちの。
アパートの近くに公園があった。
銀杏の木とかしの木が混在するベンチだけの公園。昔あったとされる遊具は全て撤去され、週末にはベンチで日向ぼっこをしつつ読書する同性愛カップルや体操をする大人の姿が見られる。
もの悲しいなんて思えるのは昔ここで子供の遊ぶ姿を覚えているご老人達ぐらいだろう。
その頃は両親共働きが当たり前で子供と遊びに行く親も少なかったから。
世界的な不況に生活費の圧迫、自分達が生きていくだけで精一杯の親たちに子供の教育費は負担でしかなかったのだ。
日本でのネバーランドの運営が始まり十数年、世界でも同じように子供の為の施設が広がった。
ボロアパートの階段を上がって行く。
上がった先に子供の姿があった。
骨のように白く、細い足が丈の短いズボンから出てる。スニーカーは大人用なのかぶかぶかで長袖もやはり大人用なのか何度の捲ってあり袖先は汚れていた。
「こんにちは」
声をかけると黒い前髪が目元を隠しながらこちらを見上げる。
服はボロボロではあるがお風呂には入れているのだろう。さらさらと風に揺れる間から黒い瞳が見えた。
「...」
「通っていいかな」
通路の柵の間から両足をぶら下げ座っていたその子はこくりと頷いた。
日本語はわかるようだ。
ネバーランドの保護対象に外国籍のこどもは入っていない。
親が外国籍の労働者であれば、預け先も無いのだ。これは移民の定住化を防ぐ為の法的処置でもあった。違法労働者を防ぎ、国土を守るため家族での日本定住を阻止したもの。
しかしこのせいで平等な教育が受けられない子供がいることも事実だ。
外の世界にこどもはいない。
いるのは大人と新しい家族としてペットを飼う家。こどもの代わりに愛玩動物を。
おかげで野良猫に野良犬、野良亀に野良ハムまでいるのだが、日本国籍の持たない子供もまたその部類に入ってしまう。
「お腹すいてる?」
背負っていたリュックの中に確かチョコレート菓子ぐらいはあったはずだ。
子供はぶんぶんと首を振りまた足元に視線を下ろす。
「そっか。何かあったら声かけて」
自分の部屋の鍵を開けながらそう声をかけると子供はこくりと頷いた。
隣の部屋に一ヶ月前に越してきた母と子。
母親は中国人だとか、子供の名前を何度か呼んでいるのを聞いた気がする。
確か...
「若汐」
名前を呼ばれて子供が顔を上げる。
一瞬戸惑いを見せたがにこりと笑ったその顔にもしかしてと思った。
前髪で目元が見えにくかったし、いつもぶかぶかの服に後ろ髪はバッサリと短かった。
年は10才ぐらいだと思うが。
女の子だったのかもしれない。
パタリと閉じたドア。
薄い壁のアパートなので隣の生活音は嫌でも聞こえる。
二人の楽しそうな話し声に母親が食事を用意する音はとても幸せそうな家族を想像することも出来た。
母親がいない静かな部屋で彼女は一人何をしているのだろう。
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