2.看護婦

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2.看護婦

新生児室。 そう書かれた部屋の扉の前に足音は立ち止まる。 部屋の鍵は暗証番号と網膜認証だが病院のスタッフである女性には簡単に開けられた。 赤いランプが緑に変わり手を翳すと扉はすんなりと開くが、時間が惜しいのか女は開ききらない扉の隙間をすり抜けすぐさま着ていた白衣を脱ぎ捨てる。 タンクトップにジーンズ姿、靴すら脱ぎ捨てて束ねていた髪も下ろすと女はリュックを背負い並んだベビーベットに駆け寄り、眠っていた赤子を抱き上げると息をつく間もなく部屋を出た。 女は真っ暗な通路を走り抜ける。裸足であるがゆえに痛みはあるがナースシューズより走りやすく、音も僅かだ。 髪が乱れようが気に止めずに必死に駆けていく。 毛布にくるまれた赤子はとてもおとなしかった。 生まれて間もないというのに全速力で走っている事に申し訳なさを感じるほど。 腕に抱き上げた小さなそれはお日様のように温かくタンポポの綿毛のように軽くて、ちょっとでも力を加えたら壊れてしまうんじゃないかと不安にさせた。 「もう少しの辛抱よ。大丈夫。うちに帰ろうね」 目も開かぬ赤子に一度笑いかけると出口である駐車場の扉に手をかけた。 女は無事に建物から出られたことに、先程腕に抱きあげた小さな命に心底幸福を感じていた。 背後から声をかけられるまでは。
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