2人が本棚に入れています
本棚に追加
3.兵士
見下した眼差しの女は心底軽蔑したと言わんばかりに鼻を鳴らす。
そもそもが安全な部屋から連れ出したのはこの女自身なのだが。
「あなたが抱いたまま膝をついて、応援が来るまでそのまま動かずに」
兵士は苦肉の策としてそう言った。銃口を女性の額に向けたままベストの襟に左手を添える。
「膝をついて!」
強めに言ったのは女がまだ睨んだまま立ち尽くしていたからだ。
そろそろと片足ずつ膝を折る女性に視線を向けたままマイクをonにする。
「こちら『い』のヨツメ。女を確保。新生児も無事。応援を要請する。」
こめかみに装着した骨伝導のイヤホンからはすぐに応援が来ることが伝わった。
現在地を伝えながら女の動きから視線を外さずにいたのだが
「・・・何だ」
やけにおとなしいのが気に掛かった。
言われた通り女は両膝を床につけじっと兵士の顔を見つめている。
「あなた、いくつ?」
「質問はこちらからします。個人識別番号は?」
「マスクで顔が見えないけど、だいぶ若そうね。二十歳そこそこってところかしら」
「スキャンしましたがあなたの顔はこの病院のスタッフではなさそうだ。
あなたには黙秘権があります。証言は裁判にて不利益になる場合もあります。」
「私を逮捕するの?あなた正気?」
「子供誘拐しといてどの口が言ってんだ」
おっと、これは失言。スキャナー付きのゴーグルにはカメラもついていたことを思い出した。
後で班長に怒られるな。と苦笑いした、瞬間。
女はにこりと笑った。
「じゃあ、返すわ」
「は?」
ぺろりと舌を出して赤ん坊を宙に放り投げた。呆然と天井を仰ぐのは一瞬ですぐさま落ちてくる赤子に手を伸ばす。
重量感のある扉の閉まる音が背後に聞こえたのはスライディングしながら床を滑った後だった。
最初のコメントを投稿しよう!