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4.囮
「ふっざけんな!クソが?!」
思わず消えた女の背に向かい怒鳴り声を上げる。その声に驚いたのか抱えていた赤子から声がした。
男は慌てて赤子の様子を確認しようと覆っていたタオルケットを剥ぐ。
「んーぎゃ!んーぎゃ!」
大きな声を出し泣き叫ぶのはピクリともしないただの人形。
即座に襟元に手を翳す。
「こちらは囮でした。新生児の母親と医師の現在位置を確認されたし。
女は駐車場へと逃走。追いますか?」
カメラからの映像は見ていたはずだ。すぐに返事はきた。
『こちらヒトツメ。母親は病室から逃走、裏口にて確保済み。医師は不明。建物内のカメラは妨害工作により管理室からの確認は出来ない。駐車場出口にてミツメ、イツツメが待機。
赤ん坊の無事を確認次第護送を開始。逃走者は警察に任せる』
威厳の利いた低重音。
「了解。フタツメの報告を待つ」
そう答えて、思わず抱いたままだった人形を見る。
強い振動がかかると泣く仕組みなのだろう、すでに泣き止んだそれは瞼を閉じていた。
「へたくそだな」
瞼と口元に描かれたあっかんべえの顔を皮肉ると先程の女の顔を思い出す。
追いつき、背中に銃口を向けた時の振り向いた殺気立った目。
額に銃口が向いているにもかかわらず膝をついた時の冷静な態度。
矛盾してる。
囮としてのただの時間稼ぎかと思ったが、
あれは、母親の顔だった。
『こちらフタツメ。子供の姿なし。繰り返す、病院内に赤ん坊の姿なし。』
兵士は人形を放り出し女の逃げた駐車場へと走り出した。
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