傘泥棒

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 最悪だ。  雪が降りだした。しかもみぞれ雪。水分を多く含んだどっしりとした雪は冷たいだけでなく髪も服も濡らしてしまう。  仕方なくいましがた出たばかりのコンビニに逆戻りするが、入ってすぐのところに陳列されているビニール傘は売り切れだった。  最悪だ。  折り畳み傘も売っているが一時の雪をしのぐために買うには高すぎる。かといってペラッペラのレインコートなんか着たくない。ため息をついて外に出ると、店前の傘立てに黒い傘が一本ささっていた。  思わず後ろを振り返る。店内には女性客がひとりだけ。彼女の右腕には真っ赤な傘がぶらさがっている。  ということは――この傘は持ち主不在ということだ。店員はこんなところに傘を置かないだろうし。不幸中の幸いとばかりに俺はその黒い傘を手に取った。スナップを外し、どんよりとした空に向けて、傘をパッと開く。 「うわっ」  最悪だ。  なんだこれ!?  開いた瞬間に、くす玉のごとく色とりどりの紙片が舞い散った。しかも骨の部分に紐がぶらさがり、その先端に七夕の短冊のような長方形の紙がゆらゆらと揺れている。まさにくす玉。だって、その紙には「おめでとう!」と書いてあったから。
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