ソヨンとリョウ

2/6
14人が本棚に入れています
本棚に追加
/6ページ
ソヨンとリョウは、二歳差の姉妹だ。 二人の産みの親は、早くに他界してしまった為、普段からとてもお互い仲が良い。 なぜ、実の親がいないのか。 村長はその件について、幼い二人に「お前たちが大きくなった時に真実を話そう」と約束をしていた。 その二人の記憶にあるのは、優しく接してくれた育ての親だけ。 子供が授からなかったミノン夫妻に引き取られたのだ。 夫妻には良くしてもらったし、とても明るい家庭で、だいぶ可愛がってもらった。 心から感謝をしている。 しかし、実の親のことはどうしても気になってしまうから、早く知りたい気持ちに駆られた。 「じゃあ、行きましょ」 淡い布服に髪を上で結い上げたリョウはニコリと笑った。白い肌がとても美しい。ソヨンは、小柄で肌は小麦色。姉妹でも全く見た目は違う。 「……ねえ、あの話かな?」 リクに手を振って、歩きながらリョウに訊いてみる。 「どうだろう……でも、私がいなくなる前に話そうって村長は思ったかもしれないわね」 「……うん。そうだよね」 村の奥にある村長の屋敷は決して大きくない。 藁葺き屋根に木材で簡素に造られている。 所々、補強の為にこの土地特有の土が、薬剤と共に塗られていて変色していて、実に質素な家だ。 コンコン、と扉をノックしてから扉を開けると、長い髭を顎に蓄えた老人は椅子に腰かけ、目を細めてこちらを見ていた。 「やあ、よく来たなぁ」 「村長様、しばらくぶりでございます」 「ご無沙汰しておりました」 「大きくなったのう。二人とも。ジン、見てみなさい。もうリョウは今年で17だ。ソヨンも……15……いや、ソヨンはあまり変わりがないなあ」 「ははは! 村長それはソヨンに失礼ですよ」 ジンと呼ばれた大柄な男はこの村長の補佐兼生活を支える役割をしている。村長が高齢の為、ここで共同生活をしているのだ。 「なんで笑いますか! ジンも失礼です!」 ソヨンが大きな声で非難すると、笑いに包まれた。 「まあ、二人とも座りなさい。リョウはこの度のことよく受けてくれたのう」 ジンは琵琶の茶を出してくれた。みんなで囲みながら、数日前のことを思い出す。 「あのトマ参官という男はのう、王室に遣える者で、偉そうな男じゃ。身分の違いを武器に後日圧力をかけてきおった」 「圧力を……?」 ソヨンとリョウは二人して目を丸くする。 「そうじゃ。どうしてもリョウが欲しいらしいのう。何故なのかは分からぬが『こちらにもし寄越さなければ税負担を大きくする』とまで言い出してな」 「ど、どうしてそんなこと……」 二人は絶句した。 この村から採れたものを毎年決められた割合で納めている。そして女子が作った色染めの布も、少ないながらに塩も。これ以上負担をかけるなんて尋常ではない。 「……まあ、なにから話そうかのう」 村長はそう言って、髭を撫でた。 「実の父と母のことを知りたいです」 ソヨンは言ってみた。 内心、心臓が破裂しそうなほどバクバクいってるが、ギュッと拳に力を入れる。 「うむ……そうじゃの……ちと心痛い話になるやも知れぬがそれでも良いか?」 そう問われて、二人は頷きあった。その様子を見て、村長は少し間を空けて語り出す。 「まず、今から16年ほど前じゃ。この村の近くに【クリョウ】という似たような集落があった。そこでは家畜を飼い平和な暮らしだったと聞いておる。しかし、だ。突然村民はみんな殺された」 その最後の一言に二人は息を飲んだ。 皆殺し? なぜ? 「……理由候補はいくつかあるが、どれも明らかになってはおらぬ。ただ、そこで命からがらここまで逃げてきた妊婦がいた。21歳の若い娘じゃった。我々も必死に善を尽くし、間もなく女の子を出産した。それが、お前、ソヨンだ」 「え……っ わたし?」 目を大きくして驚くと、言葉を失った。 自分はこの村の一員だと信じて疑わなかった。まさか……他所の人間の血が入っていたなんて。 「そして、リョウ……お前の親は……」 村長はそこまで言って険しく眉根を寄せる。刻まれたシワがより一層深くなった。
/6ページ

最初のコメントを投稿しよう!