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日が暮れてくると、村にたくさんの松明が灯された。
1番大きな広場に村人たちが集って、リョウを囲み、宴の準備を始める。
「さあさ、今夜はたくさんお肉を焼くから好きなだけ食べていきなさいよ」
この村一番料理が得意な夫人達と共に、ミノン夫妻が揃って声をかけると、リョウは嬉しそうに頷いた。
「みなさま、本当にありがとうございます。感謝しています」
ハッキリと凛々しくもある姿の彼女を見て、ソヨンはせつない気持ちになった。
あんな話を聞かされた後なのに、どうして気丈夫に振る舞えるの? 問いただしたいところだが、今はあいにくと割り込める隙間はなさそうだ。
「今夜が最後かー。すげぇなぁ。リョウは」
いつもの調子でリクがソヨンの隣りに来て、話しかけた。いつの間にかのご登場だ。
さっそく右手には骨付き肉が握られていて、左手には泡酒が見える。
「リョウの気持ちを考えると……」
ソヨンは呟いた。
「あ? なに? どした?」
「……リク、今日ね、村長さまから聞いたの。私たちがどうしてここの村にいるのかってことを。私たちに血の繋がりが無いなんて思いもしなかった」
ソヨンは、焚き火の前で笑顔で接するリョウを離れた場所から見ている。
炎に照らされて、彼女の美しい顔が遠目からでもよく見えた。
「ああ……聞いたのか。ソヨン」
「リクは、知ってたの?」
「うん。俺が小さい時に両親が話してるのをたまたま聞いてしまったことがあったよ。ソヨンは元々この村の子じゃないって。でも、でもさ、そんなの関係なくみんな二人を大切に思ってんだ。わかるだろ?」
「うん……」
「気にすんなって! ほら、お前もちょっとは食べろよ。俺が肉を取ってきてやろうか?」
リクの変わらない態度に思わず笑いが込み上げた。そうか……村人たちはほとんど知っていたことなんだ……自分たちだけが知らなかったんだ……。
「ちょっと待ってろよ」
リクはそう言って、焚き火の方へ歩いていった。けれども、ソヨンはくるりと背中を向けてその場から立ち去ろうとした。
明日にでも離れ離れになってしまう寂しさに涙が込み上げてきたからだ。情けないことに自分は割り切れない気持ちがあるらしい。
気がつけば、ソヨンは顔を赤くして走り出した。
リクの声が後ろからなにか聞こえたような気がしたが、止まらずに広場から抜け出して見慣れた土塀の道まで全力で走る。誰もいないところで立ち止まり、肩で息をして、心臓の鳴りを感じる。
ひんやりとした感触の塀におでこをつけると、涙が溢れてきた。
リョウとお別れなんて、やっぱりつらすぎる。気がつけばいつでも彼女がそばに居た。小さい頃から自分の姉だと思っていた。
「……く……っ」
嗚咽が漏れて、ズルズルと座り込むと、暫くして後ろからリクの声が聞こえたのだった。
「……ソヨン、泣いてんのか」
……答えられない。
それに、顔を見られたくないから余計下を向いてしまった。
その悲しみの背中にそっとリクの手が触れた。
「……そうだよな。あんな簡単にお偉いさんに連れ去られるなんて納得なんて出来ねぇよな」
そのまま背中をさすり続けて、リクは優しい言葉をかけた。何回も。いつまでも、ソヨンが泣き止むまで。
リョウに本心を伝えたい。
最後になるんだとしたら、きちんと感謝を言いたい。せめて。
そう、ソヨンは心に決めたのだった。
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