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――翌朝
ソヨンは鳥の声で目を覚ますと、見慣れた天井が視界に入った。
ここは、リョウと二人で暮らしている小さな木造の家だ。ある程度大きくなった時に、育て親の元を離れて暮らしなさいとミノン夫妻や村人たちから用意してもらい、二人で住んでいる。
トントントン……
リズム良く包丁の音が聞こえてくる。
リョウは昨夜深い時刻まで村人を相手にし、起きていた筈なのに、すでに早起きをしているようだ。
ソヨンも起きて土間に行くと、いつも通りに軽く髪をたばねて、採れた野菜と麦の粥を作ってくれるリョウの姿があった。
「おはよう」
ソヨンが目を擦りながら言うと、リョウは微笑んだ。
「おはよう、ソヨン」
「お粥を炊いてくれてるの?」
「そうよ。今日であなたにしてあげられるのはこれが最後だから」
そう言って、熱々の土鍋から粥を木皿によそって、簡素な卓に置く。
ヤギの乳をさっと置いて朝食準備が完了。
「あのね、リョウ……私、昨日ずっと考えたの。リョウに言いたい言葉があって」
なんとなく、昨晩のことが頭から離れず話をきり出すソヨン。
意を決して口にした。
すると、リョウは事も無げな優しげな眼差しを向ける。
「……あら、偶然ね。私も言いたいことがあるの。まあ、座って食べましょうよ」
二人で卓につくと、小さな木ベラで粥を口に入れる。じんわりと柔らかい味が染み込んでゆく。
「あのね、私はソヨンがいてくれたから生きてこられたの」
ふぅふぅ、と粥を冷ましながらリョウはそんな言葉を口にした。
「え?」
驚くソヨン。
「ずっと言おうと思ってたの。あなたに。ありがとうって」
「リョウ…………違うよっ。 逆に私が言いたかったんだよ! どんな時も助けてくれてありがとう。いたらない私のことをいつも優しく教えてくれて、諭してくれた」
……だめだ。泣きそう。
でも、全部ちゃんと最後まで言うまでは泣くもんか! ソヨンはグッと腹に力を入れた。
「ソヨンは、いつも前向きで正義感があって、武道を身につけていて強くって……私は守られてばかりだったね。小さな頃……覚えてる? ガキ大将のやつらに絡まれたとき、男3人ぶん投げて助けてくれた」
ふふ、とリョウは笑いながら言った。
姉は幼い時から美しかった為、よく育ちの悪い輩に絡まれたりもした。
その時は男より強いと自信を持つソヨンが自慢の武闘で薙ぎ払ってやった。小柄な女に負けるとは思っていない男たちは慌てて逃げ出したものだ。
「私にはこの腕力しかないから」
ソヨンが小声で言うと、リョウは木匙を置く。
「そんな言い方やめて、ソヨン。あなたのそんな所はとても素晴らしいところなの。決して後ろめたく思わないで」
「でも……腕力しか自慢のない女なんて、さ……」
「普通の子よりも強いのは素晴らしいことよ」
言い返せずにソヨンは黙った。
そして2人揃って暫く粥を口に入れる。
朝食をあっという間に食べ終わり、ソヨンは後片付けを始めた。
今からリョウは、村長様のところへ行き、身なりを整える筈だ。あのトマ参官が来る前に化粧をし、髪を結い上げ、美しい服に着替えなくてはならない。
ソヨンも簡単に身支度をして、改まってリョウの前に座った。
二人して向かい合う。
「あのね、この度のことはリョウにとっていいお話だって思ってるの……でもやっぱり寂しいって思う自分がいて……それでね、考えたんだけど……」
そう言ってゴソゴソと巾着から一つの髪飾りを出した。
「リョウを思って作ってみたの。気に入ってくれるといいんだけど」
それは、ひとつの煌めく髪飾り。
多彩な色石があしらわれており、中央には大きく金色の美しい華が飾られていた。
「本物のお花を半永久に色褪せないようにする方法を、昔に調香師だったリントさんから教わったの」
「まあ……」
リョウは驚いて手を差し出した。
その白い手の平に髪飾りが映える。
「嬉しい……ありがとう。ソヨン」
たった数時間で必死に作ったもの。
けれどもそれを見て、リョウの目に涙が光った。
「本当にありがとう」
二人は自然に寄り添い抱き合った。
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