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願いごと
あの唐突な別れから、二か月。
昨日のチーム会議の後だった。
プロジェクターを片付ける里葉さんとデスクを直す俺の二人だけが残った時に、声をかけられた。ちょっとお願いがあるから、明日の夜に会いたいんだけど、と言う。
「誤解しないで、未練はないよ。私もう、吹っ切れてるの。だけど、悩みって言うか頼みごとがあって」
俺に近づき、二人きりなのに声を顰めた。
「こういうの話せて、頼めそうなのって紘都だけだけから」
「こういうの?」
「えっちな話。あ、紘都とどうこうってことじゃないよ」
あくまでサバサバとした話し方で続ける。
「明日、十日でしょ。一晩付き合って。早く終わるかもしれないし、時間かかるかもしれない、わかんないんだけど。夕飯、奢るからさ」
お願い、と手を合わせる里葉さん。
夜の付き合いはなくなったけれど、実際のところ、里葉さんのことは上司としても尊敬してる。新卒で入った俺にイチから仕事を教えてくれた先輩だ。
何気ない雑談の中に散りばめられる社会人としてのマナーや営業の心得など、共に過ごすだけでも学ぶべきことの多い人なのだ。
断る理由はないうえに、慕っている上司からの頼み事。そしてもちろん興味もムクムクしてきた俺は、当然快諾した。
……そう。この時にはまだ、あんなとてつもないトバッチリを受けることになるなんて、予感すらなかった。
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