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そして今夜。仕事終わりに、以前も時折待ち合わせに使ったカフェで会った。
『夕飯奢るからさ』と言っていたとおり、里葉さんは積極的に俺に注文を勧めた。どこで着替えたのか、バリキャリスーツじゃなくて身体のラインの見えるワンピースだ。俺の記憶にある限り、最もお色気が盛られている。
「あのさ、近頃私、元気になったと思わない? いいことあったの」
「だろうと思いました」
俺は部下の立場を貫いて、丁寧な口調で話すことにした。何よ~よそよそしいわね、と言われるかと思ったけれど、里葉さんはまるで気にしない。
俺の前にいるけれど、俺のことは気にならないらしい。ちょっと悔しい。
「私ね、紘都のこと好き、って言ったけど。結局身体が良かっただけかもしれない。相性っていうかさ、紘都も結構イイもんね。それで好きだと思っちゃったのかも。ずっと一緒にいたいって、錯覚」
「……そうですか。勘違いしちゃうこと、ありますよね」
ちょっとモヤるな。わざわざ言う話かなあ、今の。
「実はこの前さ、凄くイイ人と寝たの。彼氏じゃないし、セフレってほどでもない。本当に寝ただけ」
「へえ」
声に出しながら、内心でも思う。一夜だけの相手ってことか。へえ。
俺は結構イイけど、そいつは凄くイイ。へえ。
……こんなデリカシーのない言い方する人だっけ。
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