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その男は、クラブに出没する。連絡先はわからない。スマホも持っていないという。
いろんなクラブで女を捕まえてはホテルに行く。何をどうするやら、あまりにイイからもう一度会いたくて待ち構えてる女もいるけれど、いつどこに来るのかわからない。
……いやいやいや。何それ。
謎めいた魅力ってよりも、怪しい。今時クラブでナンパ? スマホなし? ナンパしたけりゃスマホのアプリ使えばいいでしょ。断然楽なのに。
……という俺の感想は当然だと思うのだけれど、里葉さんはバカにしつつ哀れむような、なんとも残念な目で、俺を見た。
「絶対に連絡先を知られたくないからよ。絶対に、後をひかないように。それでも会いたくて待ち構えてる子がいるくらいなんだからアプリなんていらないの。アンタとはグレードが違うのよ」
そうか。一周まわって、直接のほうが楽ってことか。確かに俺とは発想が違う。
「っていうかそもそもクラブなんて行く人でしたっけ、里葉さん」
「ちょっと、嫌なことがあってさ」
と言って、俺を軽くにらんだ。なるほど、俺が原因か。
「なんかもう、知らない人と遊びたいなって。でもアプリ試したことないし。それに、実際に寝る寝ないが目的っていうより、一人でいたくない、うるさい場所にいきたいって思ったの。で、初めて行ってみたんだ、一人で」
「危ないですよ。やけになって女一人で行くこと自体」
「仕方なかったの。当時はね。まあそれに結果オーライだったし。で、お願いなんだけど」
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