願いごと

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「いらない男に声掛けられるだけじゃなくて、実際不便なのよ。ライバルもいるし。例えばトイレに行くのに席はずすでしょ。この前なんかカウンターの隅に場所取りのつもりでジャケット置いといたら、落とされて踏まれてた。今日は万全を期したいから」  ……唖然とした。  いや、女の世界は怖い、なんてことじゃない。  里葉さんって、こんな人だっけ。寝るだけの男を追っかけて、他の女と取り合うような人だっけ。  いやいや、もっとクールキャラのはずだ。ベッドでいくら乱れても、翌朝にはケロリと通常営業。昼間は性欲などないかのように、いや性欲を仕事欲に昇華させたかのように、冷静沈着に仕事を片付けていく。  感情温度が低めな俺から見ても、超クール。だからこそ好きだなんて言いださないと思って、セフレになった。  なんでこんな人になっちゃったんだ。  ……と思って整理してみると、もとはと言えば、俺が原因ではある。だからクラブに行ったし、だから彼に会ったし、こんな人になった。  責任を感じる謂れはないとは思いながらも、俺は素直にクラブへと移動した。  
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