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ある別れ
「私、紘都のこと、好きになったの。本気だよ」
二か月前、里葉さんが言った。
下着姿のままホテルのベッド脇に跪き、寝転ぶ俺の顔を覗き込んでいる。
「……本当に?」
「本当」
「……じゃあ、もうこんなふうには会えないよ。好きになったらヤメ、って言ったでしょ」
半身だけ起き上がり冷静に告げる俺を見上げる里葉さんの目。逸らさないその目に、じわりと涙が浮かんできた。
肩までのストレートな黒髪の細面にぱっちりと、目尻が少しだけ上がったきれいな目。エロくなると堪らなく妖しくなっちゃうその目が美しく潤んでいる。
参ったな。これじゃ俺が悪者みたいだ。セフレになった当初からのルールを告げただけなのに。
本気で好きになったら、ただ寝るだけは辛いはず。だから会うのを止める。俺にとってはむしろ冷たいの反対、のつもりのルールなんだけれど。
別にクールを気取るつもりはない。好きになってくれた人の身体だけを楽しむなんて、俺はそこまでゲスくない。他にも相手はいるんだし。
里葉さんは俺より三歳上の二十七歳、会社のバリキャリ上司だ。バリキャリにだって性欲はある。
互いに気持ち良くなり、互いに縛らず、スッキリ爽やか上司のもとでスッキリ部下が働く。それって普通にwin-win。セフレってそういういい関係。……だった。残念だけど仕方ない。
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