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 日曜日の午後二時、ショッピングモールは混み合っていて、通路いっぱいに広がって歩く家族連れとすれ違うために、体をよじらなければならないほどだった。  歩き疲れたから帰る前に休憩しようと思ったのだが、フードコートは賑わっていて座れそうにない。諦めて、目についた自動販売機で缶の無糖コーヒーを買った。ベンチを求めてさまよっていると、正面出口前のベンチがあいたので、小走りで近づいた。トイレの手前にあるベンチだった。飲食をするには抵抗がある場所だったが、他に空いていないのだから仕方ない。そこに腰を下ろし、缶のプルタブを開けた時だった。  ピロンピロン。耳障りな音がそこかしこで鳴り響いた。人混みに緊張が走る。 「緊急速報です。ブラックキューブが降ってきます。外にいる方は直ちに屋内に避難してください。屋内にいる方は窓や扉を閉めてください。間に合わない場合は無理をせず、なるべく部屋の中心に逃げてください」  持っているスマートフォンから音声が流れた。他の人の端末からも同じ音が時間差で聞こえてくる。  またかと思った。ベンチに乗せた尻に振動が伝わってくる。人々が走る振動だ。
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