第一話 どうかお幸せに

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第一話 どうかお幸せに

 純白のウェディングドレスに身を包んだ美しい女性が、バージンロードを歩いている。  大勢の人に祝福されながら、彼女は今日の結婚式を迎えていた。会場に、拍手と歓声が巻き起こる。  彼女の隣には一人の男性の姿があった。二人は手を取り合い、一歩ずつ前へと進んでいく。やがて祭壇の前にたどり着き、彼らは牧師の前で向かい合った。  誓いの言葉が終わると、二人は指輪を交換し、新郎は花嫁のベールを上げる。彼の方も緊張しているのか、少しばかり震えているように見える。  二人の唇が触れ合った瞬間、今までで一番大きな拍手と歓声が上がった。  新婦、香織は複雑な感情を胸に抱きながらも、それを一切表に出すことはなく幸せな花嫁を演じてみせた。  これは契約結婚だ。お互いの利益のために結んだ仮初めの関係に過ぎない。家族に対して後ろめたさがないではないが、それでも幸せそうな表情を浮かべることに躊躇いはなかった。  涙ぐむ母。たくさんの拍手。祝福の声。  本当なら好きな人とこの場に立ちたかった。それが決して叶わない夢だとわかっている。  もうずっと以前から、香織の恋は破れているのだから。  披露宴が始まり、歓談の時間になった。  ゲストが新郎新婦の元へ挨拶に来るその度に、香織は「素敵な人ね」や「お似合いだわ」などの当たり障りのない言葉を耳にする。 「香織」  そう言って声をかけてきた人物に、香織はどきりとした。その人は整った顔に優しい微笑みを浮かべている。 「おめでとう、どうかお幸せに」  香織は微笑みを返すが、相手の薬指に輝く銀の指輪に胸が痛んだ。自分がなにも出来ない内に、この人の指にはめられていた物だ。  忌々しさに手が震えそうになるのを懸命にこらえながらも、香織はそれを悟らせぬよう、完璧に笑って見せた。 「ありがとう、綾子」  目の前の相手は、これから始まる偽りの夫婦生活の原因を作った人物だ。  同じ女性でありながら、香織の思いは完全にこの女の物になっていた。  胸が痛くなるほどの恋だった。  それでもこの思いを伝えるわけにはいかない。  彼女への思いに蓋をしたまま、香織は他の相手の妻となったのだ。
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