第一話 どうかお幸せに

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「――香織さん?」  呼びかけられて我に返ると、隣に座っていた男が不思議そうな眼差しでこちらを見つめていた。 「ごめんなさい。ちょっとぼうっとしていたわ」  彼は今日香織と結婚式をあげたばかりの男性で、二人は今しがたようやく新居へと入ったところなのだ。  香織たちはソファでくつろぎながら話をしていた。 「今日はお疲れさまでした。あなたと出会えて本当によかったと思っています」  男は穏やかな微笑みを浮かべる。 「私もです、達也さん」  香織もまた微笑み返した。  新堂達也は香織と同い年。今年二十八歳になる会社員だ。大手企業に就職しており、社内では出世頭と言われている。学生時代から成績が良く、容姿も端正だったため女の子からも人気は高かったらしい。  そんな相手と知り合えたことは、香織にとっては本当に幸運だった。  ましてやその相手と夫婦になるだなんて。  彼との出会いは、香織にとってまさに運命的だったと思う。香織は彼を愛してはいなかったけれど、彼女の心は感謝の気持ちでいっぱいになる。 「達也さん、私と結婚してくれてありがとう」  香織の口から自然とその言葉が出ていた。  それを聞いた達也はにこりと微笑んだ。 「それはお互い様ですよ」  彼の方も、自分に感謝してくれているようだ。その事実だけで香織はとても満足できる。  なんたってこの契約結婚は、達也の方から持ち掛けて来たのだから――。
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