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由貴の姉(秋島和毅)
由貴さんの態度に怒りが収まらない俺は、今日は帰らないというメールを由貴さんに送り、帰り途中の天満から誘われて、こいつの家へと向かうはずだったのだが、天満のナビ通りにハンドルを切った先は、オシャレなビルの一角。
そこには、『料理教室 calm』と書かれた木の看板、入り口付近にあるイーゼルには、本日のメニューをコルクボードで紹介している。
数分後、入り口のドアが開き、エプロン姿の女性が現れると、数人の奥様方を送り出し、最後の一人を見送った所で、天満が彼女に声をかけた。
「由依さ〜ん!」
「天満くん?」
今晩は、とにこやかに笑った女性のふわりとした優しい笑顔は、心を癒やしてくれたのだが、つかさず彼女との間に入った天満が、我に返してくれる。
あ、ぶねー!!! 思わず見惚れる所だった……
気の所為と思うけど、どこかユキちゃんに似てるんだよな……似てるというか、由貴さんが落ち着いた女性なら、こんな感じじゃないかと思えてきた事は口が裂けても言えない。
間に入ってくれた天満に感謝だな。
「由依さん、コイツです! コイツが俺の同僚であり、友人の秋島和毅です」
前言撤回! 人に指を指すんじゃねー! お前にコイツ呼ばわりとかされたくねーっつーの!ったく、天満の交友関係ってどうなってんだよ……
ってか……この人ずっと俺を見てくるんだけど………まぁ、美人にジロジロ見られて悪い気はしないし、ここは、営業スマイルで乗り越えるか……
「あ! この方がシステム課の国宝級イケメン?」
「そうなんですよ~!」
渾身の営業スマイルは、きれいにスルーされ、まるで品定めでもするように、爪先から頭までをゆっくり見られ、何度か頷くと、見た目の合格点をもらえた。
なんなんだこの人……
横目で天満を見ると、驚いた顔をして、ため息を吐きながら、やれやれと肩をすくめる。
なんか腹立つな……
「お前まだ気づいてへんのか?」
「何が」
「そっくりやろ」
「誰に?」
なかなか本題に入らない事と、変なクイズを出された挙げ句、そりゃないだろ? と肩を落とした天満に、漫才師がやるツッコミのように頭を殴りたい手を真剣に抑えるため、ゆっくり息を吐く。
「毎日見てるやろ? ったく……この人はゆきちゃんのおねーさんで春名由依さんや」
「いつも由貴がお世話になっています」
ふわっとした笑顔は、周りに花を咲かせ、由貴さんと被らせるお姉さんに、一瞬でも、見惚れてしまい、頭の中で怒る由貴さんに謝罪し、慌てて頭を下げた。
「よっしゃ! 挨拶も済んだし、早速本題に入ってもええですか?」
「そうね、食材の準備するから寛いでて」
では、と頭を下げたお姉さんが、奥へ入っていくと同時に、エセ関西人の首を掴み引き寄せる。
「てめぇ、何考えてやがる」
「由貴ちゃんに料理作るなら身内に聞くのが一番やろ? 味方は多いほうがええしな」
味方ね……
味方になるどころかこんな事、由貴さんに知られてみろ、『僕に内緒でお姉さんに会うなんてどう言うつもり?』で、ほらね、やっぱり女の人が好きなんだーで暗転。
そんな想像が安易にできるぐらいは、由貴さんをわかってるつもりだったんだけどな……
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