大喧嘩(秋島和毅)

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大喧嘩(秋島和毅)

 由貴さんと一緒に暮らし始めてから少し経ち、一週間後には、由貴さんの誕生日を迎える。  外で待ち合わせ、いつものショッピングデートをしてから、夜景スポットの上位を締めているホテルディナーに感動したあと、まだ渡せてなかった指輪を渡すという完璧なプランを立てて三壁に臨もうとしたのだが…… 「ないです」 「え?」 「ないない」 「ちょ…」 「イケメンなのにセンスなさすぎですよぉ〜」  バースデーパーティーの計画という名目で、商品部のミーティングルームに集まった由貴さんの部下三人と、俺、そして悪友の天満なのだが、俺のプランを容赦なく切り捨てては、それをネタに三人で盛り上がる。  この容赦なさは上司譲りだな。 「大体、一緒に暮らしてるのに待ち合わせなんてめんどくさい」 「いつものデートコースと言うのもナンセンス」 「ホテルのディナーでケーキが運ばれてサプライズ指輪でしょ〜? 女子はそんなサプライズ望んでないですから〜」  ねー。と顔を合わせて笑い合う女子達は、俺を置いて天満とも盛り上がり始めた。  おい、お前はこっち側だろうが!エセ関西人! 「じゃぁ、俺はどうすればいーーんすっかね?」 「んーーたまには料理作ってあげるとか〜?」  ゆるく巻いた髪をいじりながら、可愛く首を傾げる彼女に名案!と喜び合うのだが、いや、それは料理上手の由貴さんには、一番やっちゃいけない事だろと頭を抱える。  どっと疲れの波が来たところで、自販機に行く口実を作り、ミーティングルームを後にした俺は、部屋に入ってきた由貴さんと鉢合わせをした。 「和毅?」 「由貴さん? 何処行ってたんですか?」 「社長のところ」  抱えていた封筒をデスクに置き、引いた椅子に座るとそのままデスクに項垂れ、俺はそのデスクに腰を掛ける。 「次の商品の話ですか?」 「ノーコメント」  あれ?なんか機嫌悪い?  そう思うが早いか、俺の手が由貴さんの柔らかい手に包まれ、その手の上に頬をくっつけて上目使いで俺を見てきた。  な、何? 何んだ? この可愛い行動! 機嫌が悪いわけがない! となると……何かあった? 「もしかして……俺との関係バレちゃったとか?」 「………………………」  長い沈黙の後、立ち上がった由貴さんから軽蔑の眼差しを受けることになり、俺は今日初の地雷を踏む。 「何?」 「和毅は僕との関係がバレて噂されたいんだ」 「誰もそんなこと……」  思ってないの言葉は、顔を近づけてきた由貴に遮られ、にっこり笑みを浮かべながら「話しは終わり」と俺を突き放すと、書類の束をまとめながら、ミーティングルームの前で立つ部下に向かって声を上げる。 「ミーティングするから準備して」 「ちょ、由貴」 「まだいたの? 自分の仕事場に戻って仕事しろ」  突き刺さるような冷たい視線を向けられ、右手に書類を抱えてミーティングルームの前に立った由貴は、すぐに振り返り、俺を見ると、あっかんべーと舌を出し、勢いよく扉を締めた。  はぁ? はぁーー? な、なんだあの態度! 「お前……ほんま、ユキちゃんの地雷よく踏むよな」 「踏みたくて踏んでんじゃねよ」  ミーティングルームから追い出しを食らい、俺の横に立ち、肩に手を置いた天満が、呆れた顔で俺を見た。  やっぱり由貴さんの気持ちって難しいよな……とりあえず謝るか………いや、いや、いや! 今回の喧嘩は俺に否はない!  絶対に謝るものか!
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