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「ご馳走様でしたっ」
烈己は綺麗に空になった皿の上で両手を合わせた。
「お粗末様でした」
「ふふっ、全然お粗末じゃなかった。お腹いっぱい、美味しかった!」
顔の表情筋のすべてを緩めて、烈己はピンク色の頬をして笑った。
その顔をジトリとした視線の大澄が、何か物言いたげに見つめる。
「…………鶏冠井 烈己さん」
「へっ? あ、はい……」
「あなたと暮らすと毎日こんな感じなの?」
大澄の言っている意味のほとんどを理解できずに、烈己は首を傾げ、頭の上にハテナマークを飛ばしている。
「こんな感じ……とは。……あっ、めっちゃ食う?」
「違くて」
「……え、なに? 食べ方が汚かった?」
「違くて」
「わかんないよ、なに」
「……よく相手の胃袋を掴むとかいうのは聞くけど、烈己の場合は逆だな。料理人の心臓を掴む、だな。脅威の料理人たらしだ」
「なにそれ、そんなの聞いたことな……」
そう言いかけて、つい最近、そんなやり取りをした身近な相手を一人だけ思い出して、烈己は口を半開きにしたまま固まった。
「ほぉ、覚えがあったか」
「へへ……ありました。俺ってば魔性〜」
照れながら精一杯の見栄を張っている烈己の頭を軽く撫でると、大澄はテーブルの上を片付けはじめた。
「あっ、片付けは俺がやるっ、交換こ!」
「……交換、こ?」
「へ、変? 言わない? じゃあ、半分こ!」
皿を手にしたまま、またも目が半分に閉じかけている大澄にジットリ見られて、烈己は気後れしながら眉を顰めた。
「天然たらしは大人しくテレビでも見てなさいっ!」
なぜか急にキレて却下されてしまい、烈己は大澄の発言に納得いかないままも、大人しくリビングへとトボトボ進んだ。
リビングから盗み見た大澄は、何故かキッチンで一人ぶつくさと首を傾げながらずっと何かに怒っていて、烈己はますます眉根を寄せた。
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