six

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 親友がプレッシャーをかけたせいで、待ち合わせ場所で立つ烈己の表情は険しく凝り固まっていた。その眉間にできた深い皺たちは、幼い顔立ちにはかなり不釣り合りだった。  目を閉じて深く考え込んでいたせいで、すでに目の前へ待ち人が来ているといるのに、本人は全く気付く様子がなく、固く閉じた口元からやや漏れ聞こえる唸り声にとうとう待ち人が吹き出してしまった。 「わっ、大澄さんっ!」  笑い声に驚いて烈己は目を一気に見開いた。同じように口も大きく開いたせいで大澄は腹を抱えて本格的に笑い始めた。 「あっはっは! 相変わらずよく動く顔してんなっ……ははっ、か、顔っ……」 「ちょっと! そんな笑うことないだろっ!」  前屈みになって笑う大澄の肘を掴んで、烈己は通り過ぎる周りの人たちの視線におかしな冷や汗をかきながら、すみやかに大澄を大人しくさせようと奮闘する。 「早くっ、ホラ! 行くよっ」  ひいひいと泣いて笑う、腰が曲がった男を無理矢理引っ張って烈己はなんとか人の多い駅前を脱した。 「っとに、一回笑うと延々と笑ってんだから。笑いの沸点低すぎでしょ」  完全に臍を曲げた烈己が口を尖らせてはブツブツと文句を漏らす。 「ヒヒッ……だって、烈己の顔、かおっ……ブッ……」 「顔顔言うな! 傷付くわ!」 「ごめんっ……だってさ、作りが良い分インパクトがすごい強いんだよ」 「ハイハイ、褒めてくれてありがとう!」 「ふふ、本当に褒めてるんだけどな」 「うるさい、もう黙んなさいっ」 「烈己が黙らせてくれないの?」  ヘラヘラと笑う口元をいきなり烈己の耳元まで寄せて大澄は囁いた。  息のかかった耳を慌てて抑えて、烈己は怯えたウサギのように瞳を震わせて大澄を見上げる。 「そんな怖がんないでよ、傷付くわ」  大澄は本気でショックだったようで、口では冗談ぽく言うものの、下がった眉が悲しげで烈己は心臓がチクリと痛んだ。 「ごめんなさい、びっくりしただけ……。俺あの、あんまり恋愛経験……とか、なくて……」  心細そうな指が大澄の袖口をちょこんと掴んで、耳たぶを赤くした烈己が顔を隠すようにして俯いた。  一瞬おかしな間があいて、恐る恐る烈己は顔を上げる。  なぜか目が合った大澄は完全に無表情で、瞬き一つしなかった。 「大澄……さん?」  不安になった烈己が首を傾げると同時に、大澄はまだまだ人通りのある歩道で構うことなく烈己を突然抱きしめた。 「っ……大澄さっ……ちょっ」  烈己は腕の中で大パニックを起こしていたが、大澄は全く気に留めることなく小さな頭に後ろから手を添え包み込む。 「危うく大声で叫ぶところだったわ。なんなんだ、お前はっ」 「へっ? なに? 意味わかんない、なになにっ?」 「烈己といると寿命が縮まる〜、こりゃマジやばい〜」 「……そんなの困るっ! やだっ、いやだ!!」  悲壮な声と共に烈己の手が大澄の背中に回され、必死にしがみついてきた。思った以上に強い力で引かれ、大澄の足元が少しだけふらつく。 「烈己……?」 「やだ……」  ガタガタと烈己の細い声と肩が、大澄の腕の中で震えていた。 「……ごめん……、嘘。冗談だから、ごめん」 「冗談でも言うな……ヤダ……」 「うん……もう二度と言わない。ごめんな」  何度やさしく頭や背中を撫でても、烈己の震えはなかなか止まることはなかった。大澄の知らない烈己が持つ、深く大きな傷に触れてしまったことを悟り重く後悔する。 「……烈己、キスしていい?」 「やだ」 「したい」 「だめ」 「したい」 「…………ここじゃだめ」 「了解」  少しだけ声に温度が戻って、大澄は安堵のため息と共に小さな頭へ頬を寄せた。
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