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烈己は大澄に借りた一回り大きなパジャマへと袖を通し、カチンコチンに固まりながらソファで両膝を抱えてテレビを眺めていた。
だが実際、頭の中の血液がドクドクうるさすぎて、画面の中の音はほとんど耳へ入ってきていなかった。
緊張して喉がやたらと乾く。それを見越した大澄がペッドボトルの水をテーブルへ置いてくれていて、烈己の恋心は馬鹿みたいに暴れ出して胸の中を走り回った。
「……初めて会った時はすごい無神経な人だって思ったのに、このギャップはなんなんだよ。こんなんされたら皆好きになっちゃうじゃん」
烈己はペットボトルの先をおでこにつけてゆっくり瞼を閉じる。
「──皆にはしないよ」
「ひゃおうっ!!」
いつの間にかシャワーを済ませた大澄が腰から下にタオルを巻いただけの姿でリビングへやって来ていた。
そして再び烈己のリアクションにツボをつかれ、素早く横を向いて、手遅れながら必死に笑いを堪えている。
「笑うなってば!」
「っ……、笑わせんなってば」
真っ赤な顔がぷうっと膨らんで、大澄を睨んでいるが、相手は相変わらず柔らかく微笑んだままだった。
「俺が優しいのは烈己にだけ。好きな子にしかしない」
大澄は烈己のそばまで寄り、柔らかな髪をすいた。見えた丸いおでこは頬と同じでピンク色をしていて、大澄は眩しそうに笑みを浮かべる。
「……ありがと……嬉しい……デス」
「なんで敬語なの?」
「わかんなぃ……」
恥ずかしさで溢れた返事のほとんどは消え去ってしまって大澄の耳までは届かない。
「どうしますか? お姫様」
「…………する」
お姫様言うな、と烈己は小さく口を尖らせて、大澄が差し出した手を取り立ち上がる。
待っている間とは比べものにならないくらいの早さで烈己の心臓はバクバクと跳ね始め、膨らみ過ぎて破裂してしまいそうだった。
繋いだ烈己の指が少しだけ冷たくなって震えていることに大澄は気付いていたが、その気持ちを再び確かめるような無粋はもうしない。
そのまま一言も発することなく、寝室へと烈己を招き入れる。
ベッドへ腰掛けさせ、軽くキスするだけで烈己は肩を震わせ体を強ばらせる。
「……で、電気……明るいのヤダ……」
「あら残念」
「馬鹿……」
極力冗談ぽく返すものの、烈己の緊張が簡単に解けるわけもなく、大澄は眉を軽く上げただけの軽い笑みを返し、灯りを極力落としてやった。
薄暗い部屋の中で湿気を帯びた大澄の髪先からあのシャンプーの香りが漂い、首筋から肩にかけてのラインを烈己はひっそり目で追う。
「……裸、なんですネ……」
少しだけ顔を上げた烈己がこしょりと大澄へ告げる。
「はい、服を着ている余裕がありませんでした」
「なにそれ……、んっ……」
まだ一度もされたとこのない優しくて深い口付けに、烈己はもう目を開いていられなかった。
大澄の熱が唇から侵入して、自分の口の中を麻痺させてゆく。されるがままに舌を吸われ、先端を甘噛みされる。それだけで烈己の頭は芯まで痺れ、勝手に目元が熱くなって涙が滲む。そのまま押し倒されて烈己は素直にシーツへ背を預ける。
「……怖い?」
「ううん……、平気」
「とても平気そうには見えないけど?」
口元に笑みを浮かべる大澄を赤い目が精一杯睨む。
「怖いって言ったら、大澄さんは俺を離しちゃうんでしょう?」
「……さぁ、そこまで聞き分けの良い男かどうか自信はないけど……」
首筋をやんわりと吸われ、烈己は再び肩をすくませる。
「大澄さん……すき……」
「うん……俺も、烈己が好きだよ……」
鼓膜から大澄の声が体へと染み込んでゆく。低くて甘く優しい声に、烈己は今まで自分のどこへ隠れていたのかわからないほどの大きな感情に溺れそうになりながら、大澄の背中へ両腕を回した。
「そんな固く口閉じてたらキスできないよ?」
もう返事することすらできない烈己は、うっすら開いた瞳で大澄を見つめるだけだ。
「……まったく……、今頃あの時の痴漢にここまでの殺意が湧くとは思わなかったよ」
怒りを逃すための深い息をひとつ吐いて、大澄はわざと烈己の首筋へ歯を立てる。
甘噛みされるだけで首筋が切られたみたいに熱くなって、烈己は初めての経験に再び瞼をきつく閉じた。
喉を伝って牙がゆっくり下へと降りてゆく。
パジャマのボタンを器用に解く大きな手のひらが烈己の胸へと這う。拒絶する言葉を聞きたくなくて大澄は執拗に烈己の唇を塞いだ。
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