huit

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huit

 自分と同じ顔をした男が床に座って何枚もの写真を破いている──。  大澄はその何度となく見た光景で、これが夢であることを気付いていた──。 「…………花月(かづき)」  大澄の呼びかけに虚な瞳が揺れた。目尻が赤い、また兄は泣いていたのだ。  視線が合わさった途端、双子の兄である花月は顔を歪め、苦しげに震えながらまた泣き始めた。 「またダメだった……、赤ちゃん、死んじゃった……」 「……そうか、辛かったな、悔しいな……」  大澄はすっかり痩せてしまった兄の肩を抱き寄せ、背中をゆっくり撫でてやる。 「なんで? なんで……俺はαのに……、なんであの人の子供が産めないんだ……」 「花月……子供がいなくたって幸せな番はたくさんいるよ。どうしてもダメなのか? このままじゃお前の体が先に死んでしまう、そんなの意味ない」 「ダメだ! 子供が必要なんだ! でないとあの人と家族になれない!」 「花月、子供は都合の良い道具じゃない。子供がいないと幸せになれないならそんなものは本物じゃない、愛じゃない」 「お前に何がわかる!」  大澄は花月に思い切り胸を突き飛ばされ、無抵抗だった体を床で強く打ちつけた。 「本当に人を好きなったことのないお前に俺の何がわかるんだ! お前なんかにっ……」 ──ああ、いつからだろう。  この世界でだった一人、俺を理解していてくれていた兄がこんな風に遠い存在になってしまったのは……。  すべて俺のせいなんだろうか──俺が誰も愛さないでいたから? 俺自身が兄を理解できなかったから?  わからない──  もう、なにもわからない。  聞いて確かめることすらできない。 ──もう、花月()はこの世にいないのだから……。  兄貴……。  いつからなのかな? アンタが俺に微笑まなくなったのは……。  最後にそれを見たのは、いつだったんだろうか──。  大澄が次の言葉を紡ごうとした瞬間、顎に激痛が走り、大澄の視界は回転するように乱れ、体が一瞬落下するような感覚に陥って、両目に現実である朝の眩しさが一気に差し込んだ。 「ん……」  顎に激痛を与えた犯人はすやすやと寝息を立てて、大澄の胸の上で眠っていた。  そこから伸ばされた手が今も顎にあって、大澄は瞼を半分閉じながらその手をゆっくり退かした。 「寝相の悪いお姫様だな……、ったく」  それでも、あの苦しい夢の中から連れ出してくれたことに大澄はひどく安堵を覚えた。  安心しきって眠るどこか幼いその顔をそっと指でなぞり、軽く口付ける。 「ありがとう、烈己……」
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