huit

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 ぐーきゅるきゅると、腹の虫がものすごい音を立てたせいで烈己は一気に覚醒した。  大澄に聞かれたのではないかと、慌てて起き上がるが、下半身を駆け抜ける強烈な痛みに、再びベッドへ顔から沈んだ。 「〜〜〜〜っ。いた、いっ……」  はじめて大澄と繋った場所がズキズキと痛んだ。行為の最中はそこまでの痛みはなかったはずなのに、裂けてしまっているのかと不安になり、恐る恐る触って確かめた。  ベッドには烈己ひとりが残され、部屋のどこにも大澄の気配はなかった。 「……なんか、思ってた朝と違う……」  甘い朝を迎えられるのをどこか期待していた烈己は、しょんぼりしながら枕へ顔を埋めてひとりいじけた。  瞼を閉じるとうっかり昨夜の熱が脳裏をよぎり、烈己はひとりで顔を赤らめた。  大澄の甘い匂いや、手の感触、肌の温もりすべてが烈己の全身に蘇り、誤魔化すように掛け布団に潜って丸くなる。  今になって急に心臓がバクバクと慌て出して、恥ずかしさのあまり烈己は下唇を噛んだ。 ──どうしよう、どんな顔して大澄さんと話せばいいのかわかんなくなった……。  恥ずかしい、どうしよう、今すぐ自分ン()にワープしたい。 「だけど……お腹空いた……」  烈己は色気のない自分に何よりも絶望しながら、ぺしゃりと枕に顔を深く埋めた。    枕元に綺麗に畳んで置かれたパジャマへ袖を通して、烈己は生まれたての子鹿のようにゆっくりと、リビングに続く扉へと進んだ。  だが、リビングやキッチンのどこにも大澄の姿は見当たらず、烈己は首を傾げる。  寝室の向こう、玄関へ続く廊下側にもう一部屋あったことを思い出し、子鹿は震える足と共にそちらへと向かった。  ドアの外からそっと中の様子を伺うと、小さく物音がして、中に大澄がいることがわかった。  もじもじとドアの前でどうするか考えあぐねていると「烈己? 起きたの?」と、先に中から声がして、烈己は驚きのあまり床から足が浮いた気がした。  あわわわわと声も出せずに動揺する烈己の前に、大澄がドアを開いてあっさり向こうから現れた。 「…………っ、お、はょうござぃま、す」  壊れかけた古い機械のような、音程の狂った自動音声が烈己の口から流れた。 「──────」 「わっ、笑うなよ!」 「ふっ、くっ……無理っ……」  真っ赤な顔をした烈己に胸をポコポコと殴られながらも大澄はひたすら笑い続けた。 「もう、勘弁して、だめっ、烈己といると心臓がもたない、どういう生き物なの、あなたは」 「うるさいなあっ、笑うなってば!」  すっかり臍を曲げて吊り上がった眉の烈己を抱き寄せて、大澄は深いため息をひとつついた。 「はぁ……可愛い。たまんない」  体に大澄の甘い声が直接響いて、全身の体温が勝手に上がった。頬が熱くて、心臓がまたうるさく鳴りはじめる。心臓がもたないのはこっちのセリフだと心の底から烈己は思った。  体が少しだけ離れて、優しい手のひらが烈己の頬を撫でた。 「体、平気? 痛くない?」  穏やかな大澄の瞳に見つめられ、なぜだか涙が出そうになる。 「……痛い……けど、平気」 「ごめんな、もっと優しくしたかったんだけど……辛い思いさせたな」 「辛くなんてないよ、俺すごくすごく幸せだった。嬉しかったし、大澄さんのこともっともっと好きになった」 「わあああ、もうやめて、お願い、許して。大澄さんの大澄さんが危険信号を発します」 「なにそれ、変なの」  ひゃははと天然たらしが無邪気に笑うのを大澄はジトリと睨んだ。 「大澄さんは……? 俺のこと……好きに、なった?」  自信なさげに潤んだ瞳が下から狼を見上げてくるものだから大澄は危うく発狂しかけた。 「前から大好きだわ! 何を言ってんだ!」  再び力強く抱きしめられ烈己は目を丸くした。 「……ほんと? 本当に俺のこと、好き?」 「好き、大好き。前からちゃんとお伝えしてましたけどご理解頂けてなかったですか、俺は悲しいです」 「ごめんなさい、俺。自信なくて……、ごめんなさい」 「謝んなくていいよ、烈己は不安だったんだろ? 俺意地悪ばっかする()な奴だもんな? けど俺はちゃんと真剣だよ。真剣に烈己が好きだし大切だ。それだけは信じてください」 「…………はい」  烈己は大澄の背中に手を回して、ぎゅっとシャツを握りしめた。 「返事まで可愛いの、なんなの、もう」  大澄から唸り声のようなため息が漏れた。 「なにが? わかんな──」  烈己の疑問は大澄のキスによって遮られ、それに抵抗することなく烈己は甘い口付けを味わった。  グーッ、と烈己からは似つかわしくない低い音が腹から響き、大澄は笑うのを堪えながら、恥ずかしさで顔を真っ赤にして俯く可愛い恋人の手を取り、リビングへと誘った。
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