huit

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「和食!」  朝から出された味噌汁の匂いに烈己は大きく感動していた。 「魚を焼く余裕はなかったけどね」と、大澄はコンビニで買った鮭をレンジで温め皿に盛りつける。  綺麗な形の玉子焼きに、ほうれん草のおひたし、ワンプレートに色も栄養もバランスよく乗った朝ご飯が烈己の前に出された。 「大澄さんすごいー! 朝からこんなの作れちゃうの? どうしよう、写真撮りたいっ」 「撮らなくて良いから、ハイ、いただきます」 「いただきます!」  お行儀よく烈己は手を合わせると、味噌汁を一口啜り「は〜」とため息をつき、ずっとニコニコ笑っていた。 「本当に、あなたと食卓を囲むことが一番俺にはハードルが高い、もう攻撃力がヤバすぎる」  なぜかすでに疲れを見せている大澄の姿に、烈己は玉子焼きを頬張りながら首を傾げた。 「烈己は本当に真っ直ぐ良い子に育ったね。ぶっちゃげ口も手も悪いけど、性格だけは本当にピカイチだよ」 「それ褒めてます?」 「褒めてます、口と手は物理的に塞ぐことが可能なのでどうにかなりますからご安心ください」 「なんだよそれぇ、俺別にフツーだけど」 「お前がフツーだったら俺はどうなる、ド底辺だ! 地面突き抜けて最早埋まるわ!」 「大澄さんは意地悪で笑い上戸だけど、別に性格自体悪いわけじゃないよ、すごい優しいもん」 「もうやめて、大澄さん泣いちゃう」 「え、やだ、泣かないで、ごめんなさい」  慌てて椅子から腰を上げた悲しげな表情の烈己を見て、大澄はますます眩暈がした。 「あー! もー! 煮るなり焼くなり好きにしてぇ!」  背もたれに全体重をダラリと預けて、大きな体と共に自分自身を丸投げした大澄にぎょっとしながらも、烈己はその頭をヨシヨシと撫でてやった。  すると、何かの線が切れたらしく、大澄はいきなり立ち上がって烈己のそばへ寄り、突然烈己を抱き上げた。 「ひゃあっ! なにっ高いっ、怖いっ」  突然のお姫様抱っこに感動するムードでもなく、ただ落ちたくなくて烈己は必死に大澄へとしがみつく。 「この子は本当にどうしてくれようか!」 「何が? 全然意味わかんないっ、そんなブンブン揺らさないでっ、怖いっ」 「烈己!」 「なにっ!」 「結婚しよう、俺たち番になろう!」 「────へっ?」  前触れのない、急なプロポーズの言葉に烈己は全く頭の中が追いつかず、ただ目を丸くして口をぽかんと開いたままだった。 「相性だとか、運命とか関係ない。俺は俺の意志で烈己が好きだ。烈己が良い、俺は烈己といたい。──烈己は?」  「……そ、んなの……、決まってる……、俺は大澄さんのこと大好きなんだから……一緒にいたいに決まってる、命が果てる最後まで、大澄さんといたい。たとえ二人きりでも良い、あなたと家族になりたい──」  烈己は大きな瞳からポロポロと大粒の涙を流して、大澄の気持ちへ答えた。  ゆっくり床へと下ろされ、二人は真っ直ぐ向かい合って額同士をくっつける。長い睫毛を濡らしながら泣き止まない烈己の頬を何度も指で拭いながら、大澄は幸せそうに微笑んだ。  可愛く震える唇へとキスを落とし、甘く下唇を食むと烈己もゆっくりと唇を開いて応える。 「いきなり、ホント……大澄さんてば、全然読めない……」 「ん? そうだな、俺も烈己のことになると俺自身が全く読めなくて困ってる」 「なにそれ、俺のせい?」 「そう、烈己が犯罪級に可愛いから」 「もう、そういうわざとらしいの、ホントいらないから」  意地悪ばかり言う男の胸を叩いて、烈己はそのまま顔を埋めた。 「お腹すいててご飯食べたいのに、離れたくない……」  顔を擦り付けて、ぎゅうぎゅうと抱きついてくる烈己に、大澄は半分魂を抜かれながらも、やれやれと肩をすくめて天井を仰いだ。 「食べたらまた抱きあえば良いだろ?」 「だめ、今がいい。まだこうしてて」 「おっ、耐久レースか? 俺の忍耐力を試すテストか?」 「もう、少し黙ってろ!」  烈己は大澄の首へ両手をかけて思い切り引き寄せると、うるさい唇を自ら塞いだ。  わざと乱暴に舌に噛みつき、そのまま吸い付いてじっと離さずにいると、いい加減苦しかったらしく、大澄からくぐもった声が漏れた。  烈己がようやく大澄の舌を解放してやると「ぷはっ」と、大澄は息をついた。そのだらしなく濡れた唇のまわりをペロリと烈己は舐め上げた。 「ふふ、キョトンって顔してる。少しは静かになったかな?」  頬をピンク色に染めた烈己がしてやったりと、得意げに笑ってみせるが、瞳が恥ずかしさのあまりひどく揺れていて、結果として大澄には完全なる逆効果だった。 「……っとに……、こんのぉ〜」 「えっ、嘘、怒ったの? ごめんなさい、俺……」 「全然怒ってないです! 単に俺の頭のネジが20本程抜けただけです! もうっ、早くご飯食べなさいっ、耐久レースは俺の完敗!!」  デカい図体をした男が地団駄を踏みながら悶え苦しんでいる姿に烈己は慄き、戦々恐々としながらも大人しく席へと戻った。その後も、目の前でやたらと鼻息を荒くした大澄が、鮭を直接歯で噛みちぎる姿に度肝を抜かれながらも、烈己は最後まで黙って食事を済ませた。
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