neuf

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 数日後、烈己の部屋に訪れた江は珍しく恋人の秀も一緒に連れて来た。 「珍しく秀も連れて来たかと思えば、コレ?」  タッパーに入った大量の赤飯を渡され、烈己は白目を剥いた。 「全然あれから連絡くれないんだもん、ポリネシアンセックスでもしてんのかと思った」 「ポッ? ポリ、なに???」 「江の言葉をまともに聞こうとするな、頭が壊れるぞ」  首が折れるほど傾げた烈己の肩をポンポンと叩いて、秀は買い物袋を持ち上げ「台所借りるぞ」と中へ進んだ。 「秀、お茶」  江は勝手知ったる親友の部屋で早速くつろぎ始め、ゲーム機の電源を入れた。 「もー、俺が淹れるから待ってろ。江って本当王様すぎやしませんか、いや、女王様?」 「いや、暴君のが近い」と台所から秀が口を出した。  台所にいる秀の隣に並んで、烈己はニコニコしながらその手元を覗く。 「鶏の手羽元と卵? あ、さっぱり煮だ?」 「正解。お前コレ好きだろ?」 「好きー。あ、俺サラダ作ろうか?」 「だめ! 烈己は俺とゲームすんのっ」と、リビングから邪魔が入る。 「……やっぱあれは暴君だわ」 「だろ?」  秀は鼻で笑って烈己に料理は自分に任せるよう告げた。  リビングへ戻ってきた烈己は、暴君の前へ日本茶を出した。 「良きに計らえ」 「マジいつか刺されるからな、江」 「烈己になら本望よ!」 「ばか」  烈己に頭をパシリとはたかれ江がわざとオーバーにソファへ倒れた。長い睫毛の下から覗く綺麗な瞳が意味深にこちらを見ている。 「なんだよ」 「なんだよじゃないわよ。幸せオーラ満開にして」 「……お父さんキャラもうやめたの?」  烈己は照れながらゲームのリモコンを手にして膝を曲げ、そこへ両肘を乗せて三角に座った。 「お父さんはねぇ、大人になった烈己を今見てるの」 「俺なんも話す気ないから」 「ちょっと! 俺たちが何しに今日来たと思ってんの?!」  江はソファから頭を起こすと急に態度を変え、憤慨しながら烈己を見た。 「秀は優しいから本当にご飯を作りに来てくれた。江はただ意地悪しに来ただけ!」 「意地悪じゃないよ! 質疑応答しにきただけ!」 「却下!」 「人に助けを求めておいてそれはないでしょ!」  江は四足歩行の動物のように四肢をバタバタと這わせて勢いよく前進し、烈己の目前ギリギリまで顔を寄せた。あまりの圧に思わず烈己の頭は後ずさる。 「あの時はありがとう、本当に感謝してます。だけどそれ以外はプライベートですんで」 「なによーっ、勿体ぶっちゃってぇ!」 「うるさいなぁっ、……あっ、写真はなんとか撮ったよ」 「ほお……その(ほう)何気に抜かりないのお」 「──さっきからその喋り方なんなの?」  烈己は訝しげに眉を寄せ、目を細めながらテーブルの上に置いてあった携帯を手に取り、画面を江へ向けた。  江は烈己の手からそれを奪い取り画面に食いつく。 「ちょっと、江っ」 「ふぅん、やらしい」 「なにがあ」 「何がじゃないよ、裸で寝てる男の顔撮るとか。こっちが恥ずかしいんですけど」 「じゃあ見なくていい、返してよ」 「いやだ! 俺の携帯へ共有する」 「ダメ、やめろ!」  烈己は必死に江から携帯を取り戻そうと手を伸ばすが、器用で長い江の手がそれをひょいひょいと軽くかわして回る。 「ねぇ、この人何歳? 何の仕事は何してる人? お金持ち? どこ住み? 家は近いの?」 「尋問コワ……。今度直接紹介するから待ってて」 「えっ、なに! いきなり積極的、どした」  江が驚いた隙にその手からようやく携帯を奪取することに烈己は成功した。そして、小さな咳払いをひとつして、頬を少しピンクにしながら江を見つめた。 「俺。大澄さんと結婚する」 「マジでっ?!」  江の大絶叫に思わず秀もリビングへ顔を覗かせた。
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