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翌日、烈己が仕事終わりにスマホをいじっていると、画面に大澄の名が突然表示された。ソファの上でだらしなく寝転がっていた烈己は慌てて起き上がり、なぜか姿勢を正す。
「もしもし?」
「………………」
シン、と携帯からは謎の空白が流れる。
「ちょっと、無言電話が趣味なの?」
「いや──今俺、見えちゃったんだよ」
「えっ?」
大澄の真面目な声色に烈己は思わず息を呑む。
「──烈己が裸で」
「婚約破棄します!」大澄の言葉に被せるようにして烈己が叫んだ。
「嘘嘘嘘嘘嘘ですっ! 許して烈己ちゃん!」
「謝るくらいなら最初から意味不明なこと言わなきゃいいじゃん」
「烈己の緊張をほぐしてあげようと思ったんだろ〜、大澄さんの優しさわかってよー」
──烈己は思わずギクリとして肩が上がった。何故か部屋の中をキョロキョロと見回してしまう。
「キ、キンチョー? 新種の鳥の名前かなんかですか?」
「烈己ちゃんは本当に下手くそだね……。本題に移りますが、今夜会える?」
「へっ、あっ、今夜? え、と……その……えっと」
「ご飯食べて、少し未来のお話もしよう。お泊まりはまた今度、週末のお楽しみね」
烈己は一人で勝手に先走ってしまっていた自分が恥ずかしくなり、全身の血液が沸騰したみたいに体温が急上昇するのを感じた。
火照る頬をさすりながら烈己は今夜の約束に応じる。
別れ際、烈己がゆっくり電話を切ろうとした瞬間、大澄が駆け込んだ。
「あっ、食べたいものあったら言って? 次こそ探しとく」
「大澄さんが食べたいものでいいよ? 俺のためにこの間もご飯たくさん作ってくれたし。何食べたい?」
「えー、じゃあ烈──」
烈己は大澄の言葉を最後まで聞かずにさっさと電話を切り、ソファにスマホを投げつけた。
「はぁー、ただのエロオヤジと付き合ってる気分になってきた」
口ではそんな悪態をついておきながら、烈己は自然と鼻歌を口ずさんでいる自分に全く気がつくことがないまま、いそいそと今日着る服を選びはじめた。
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