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烈己が駅の改札をくぐると、構内の柱の前に大澄が立っているのがすぐ見えた。
少し猫背気味で姿勢は悪いけれど、スタイルも良く背の高い大澄は明らかに目立っていた。
それは彼のαである潜在的なもののせいなのかもしれないし、烈己がΩだから特別そう見えるのかもしれない。
ふっと烈己の頭の中に同じαである秀の顔がよぎる。
「……αってみんな秀みたいにイカツイの想像してたけど、大澄さんは筋肉隆々とかじゃなかったなぁ……」
口にしたせいで烈己はベッドの中の大澄の姿を思い出してしまい、途端に全身からおかしな汗が吹き出した。恐ろしいほど顔の温度が上がってゆき、鏡なんかで確認しなくても今自分の顔がどうなっているのかは容易に想像出来た。
「エロオヤジは俺なのかっ、俺の馬鹿っ、落ち着けっ」
外から叩いたところでどうにもならないのに、烈己は瞼を強く瞑って火照った頬を何度も両手のひらで戒めた。
「何してんの!」
いきなり両手を掴まれ、烈己は声にびっくりして目を開けた。そこにはそんな烈己を見て目を丸くしている大澄がいた。
「大澄さん……」
「ふっと見たら自分のこといじめてる烈己がいるんだもん、びっくりしたよ。何してんの、除霊?」
「あ、ある意味、そう」
「ええっ?!」
「あ、の、えっと、お待たせしました」
「うん? 除霊はもういいの?」
「はい、無事完了しました」
「嗚呼、そうですか……。ええと、今日は急に呼び出してごめんね」
大澄は烈己の赤い頬を心配そうに指で撫でながら瞳を見つめた。
「ううん、嬉しい。大澄さんにまたすぐ会えて」
「可愛い」
「んんん?」
会話がちゃんと成立していなかった気がして、烈己は小さく首を傾げた。
そんなことはお構いなしに、大澄はここが往来であることを忘れたのか突然烈己の体を抱きしめて、愛しいΩの匂いでも確かめるみたいに首筋の近くでゆっくりと深呼吸した。
「おっ、大澄さんっ、ちょっと、ここ駅前っ、大澄さんっ」
すれ違う人たちと時折目が合いながらその大きな背中を必死に引き剥がそうと暴れるが、全くもってびくともしない。
「背景のことなんて気にするな」
「気にするよ〜っ、だってその背景とさっきから目が合うんだもん〜っ」
「じゃあ俺だけ見ててよ」
「それも見えない〜肩しか見えない〜」
「文句の多い子だなぁ〜」
しぶしぶ大澄は顔を上げ、烈己と視線を合わせた。嫌な予感がした烈己はすでに眉間に皺が寄っている。
「ダメダメダメダメッ」
烈己の抵抗する手が必死に大澄の胸を押しているが、大澄は構うことなく烈己を抱きしめる手を強めた。
もう片方の手で頭の後ろを押さえられ、烈己は慌てて大きく口を開くが、言葉を発することは叶わなかった。
唇を塞がれても尚、烈己は何かを喚いてる。
それすら可愛いと思う重症のαは漏れ出る笑みを隠せないまましばらく愛しいΩの唇を味わった。
そのあとすぐ、天井に木霊さんばかりの破裂音と汚い悲鳴がしたのはいうまでもなかった。
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