dix

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 今夜は大澄の食べたいものを食べようと言っていたのに、結局烈己が食べたがった韓国料理を頼んで終わった。  烈己はキッチンで片付けを済ませ、お茶を汲んで大澄のもとへ戻ってきた。 「ありがとう」と大澄がそれを受け取る。 「次こそ大澄さんリクエストで食べようね」 「はーい、考えとく」  大澄はニコニコしながら烈己のそばへ寄り、自分の膝の間に烈己を座り直させた。すくそばで目が合い、烈己がくすりと笑う。 「ん?」 「ううん。大澄さんて俺より大人なのにすごく甘えるなぁって思って」 「ダメでした?」 「全然ダメじゃないけど、なんか初めて会った時とイメージが違ったから」 「だよな、俺も自分でそう思う」  大澄は自身の顎を烈己の肩へと乗せた。 「ええ? なにそれ」 「柄じゃないんだよ、なにもかも。なんでなのかなぁと俺も思うけど、考えんのやめた。俺はこうしたいからこうする」 「本能?」くすくすと烈己が肩を揺らす。 「かも、獣だから」 「ん? ケダモノ?」 「おいー」  わざと揶揄う烈己の体を後ろから抱きしめて肌をくすぐる。 「やだ、やめっ……ひゃっ、くすぐったいっ」  伸ばして座っていた烈己の両足が跳ねて、膝同士がぶつかる。シャツの裾に手を這わされて、慌てて大澄の手を抑えた。 「だめっ……このアパート壁薄いから……無理なのっ」  こしょこしょと顔を赤らめながら烈己は必死に大澄を制止する。 「えぇ〜」と、こどものように不釣り合いな声が大澄から漏れる。 「ほんとに! これ、フリとかじゃないからねっ、ここは俺が中学から住んでる区営住宅なの、無理、皆顔見知りなの、お願い」 「…………もう引っ越すからよくない?」 「よくないっ、全然よくないっ!」  大澄の腕から逃れようと烈己は暴れるも、明らかな体格の違いから、まったくもってそれは意味をなさなかった。  シャツから覗くうなじを何度もきつく吸われて烈己は小さく声を漏らす。 「ん……っ、だめ……。ねぇ、大澄さん……だめなの」  悪びれもせず肌へ歯を立て、大澄の手があっという間に烈己の胸を這う。太腿の内側を何度もなぞられ、細い腰がビクビクと震えた。 「好きだよ、烈己……」耳元で甘く、悪い声がする。 「……も、そういうのズルい、からぁ……」 「本当のことだから。俺は烈己が好きなんだ」 「ズルい人は嫌い……」 「じゃあ、嫌いなまま好きになって……」 「もう、なにそれ、意味わかんない……」    どうしようもない愚かな恋心は誰もが同じなのだと、呆れるようにして烈己は薄く笑った。 「あーあ、もう。……俺も大好きだよ、獣さん」  逃げることを諦めた獲物は、隙だらけの獣の口へと自ら飛び込んだ。  許された大澄は今までのはほんの遊びだったと言わんばかりに激しくその唇を求め、あっという間に烈己の体を溶かした。 「……あっ、大澄さ……ここじゃだめ……ベッド……」 「俺に乗れば良いよ」 「本気で……怒るよっ……大澄さ、んの……大事な場所噛むよっ……」  一瞬大澄に変な()が流れ、なにかを想像してみたのかガバリと起き上がるとそのまま烈己を抱きかかえた。 「お姫様! 寝屋はどちらでっ?」 「……まじ、ムードゼロ……」  大きな瞳を半分閉じかけた烈己が諦めたように大澄を眺めた。  足で器用に寝室の襖を開いて、大澄は烈己をゆっくりベッドにおろした。   「ふふ」と不意に怪しい笑みを大澄がこぼす。 「なに? こわい」 「いいなぁ、このベッド……烈己の匂いでいっぱい。ヤバイ」 「俺なんかの匂いが良いの?」 「そうだよ、大好きな人の匂いだもん」 「ふぅ……ん、そか」  そう思うのは自分だけじゃないんだと、烈己はなんだかくすぐったくて俯く。  柔らかな頬にキスをされて烈己は顔を上げる。  大澄の優しい眼差しがこちらを向いていて、烈己は思わず唇を結んで瞳だけで微笑みを返した。  今、声を出したら一緒に涙が出ると思った。  わかっていて大澄は結んだ唇へもキスを落とす。顔中、あらゆる場所にキスの応酬を受け、烈己はとうとう吹き出してしまった。  微笑む大澄と、おでこ同士をくっつけて指と指を結ぶ。 「大好き……大澄さん」  大袈裟だって誰かに笑われてもいい──  俺はあなたに会うためにきっと生まれた──  お母さんがどうして俺をひとりで産んだのかなんて、もう悩む必要なんてどこにもない──  その答えは俺が見つければ良いんだ──  それだけが確かな答えなんだ──
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