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 大澄は以前から鶏冠井(かいで)烈己(れお)という謎の生命体を理解しようと日々心がけてはいたつもりではあったが、今日それを諦めてしまおうかと心が折れ始めていた──。 「……烈己ちゃん、なにしてるの」 「大澄さんの見てる」 「うん、わかってるよ。だって見てるどころか触ってるもんね。大澄さん興奮しすぎて白昼夢でも見てるのかな? うん? これは夢かな?」  さっきまで涙を滲ませ、恥ずかしがって服すら脱がすのにも時間を要した可愛い恋人が、なぜか今は全裸である羞恥はどこかへ忘れ去ってしまったのか、パートナーの性器を握ったり指で撫でたりを繰り返していた。 「俺ね、お父さんいなかったからαの人の見たことなかったの。初めてした時は恥ずかしくってほとんど目開けてられなかったから……こんなの挿れたらそりゃ痛いに決まってるよね、びっくりした」 「ひゃうっ!」  先端をぐりぐりと指で弄られ、大澄は思わず尻が浮いた。 「烈己ちゃん! やめてっ、大澄さん気絶しちゃう!」 「えっごめんなさいっ、痛かった?」  本気で反省している真剣な顔を向けられ、ますます大澄の意識は遠のく。 「イタイ……咥えて舐めてくれたら唾で治る、多分」 「ええ無理っ、こんなの俺の口には収まんないよっ」 「マジレス!」 「へっ?」と頭に花飾りでも乗せてそうなお姫様が首を傾げ、ますます大澄の人間として最低限残っていた良心が痛んだ。  顔から一切の表情を失った男にいきなり胸の先端を強くつままれ、烈己から短い悲鳴が上がった。 「痛いっ! 怒ったの?」 「怒ってる。烈己を教育してきた国に、行政に!」 「えっ、話大きくない?」 「俺が教育しなおしてやる!」 「なんかわかんないけど()な予感しかない……」  烈己のピンク色の頬がやや引きつって曇る。  足首を掴まれ人形でも操るみたいにコロンっと簡単に烈己はベッドへ倒された。  下ろそうにも足の自由は大澄に奪われたままで、逆らって起きあがろうと頭を起こした瞬間、大澄の後頭部が股の間に見えて烈己は発狂しかけた。  声を上げるよりはやく、大澄の舌が烈己の秘部を舐め上げ烈己は恥ずかしさで目を回した。 「やだっ、大澄さんっ、だめっそんなとこっ……汚いっ……」  烈己が必死に手を伸ばして大澄の頭を押すが、全くもってそれは効果を持たず、長く器用な舌が烈己を執拗に責めたてる。 「やっ……だめ……ぇ、だめ……っ、あっ!」 「…………可愛い。ここ、好き?」 「や……っ、ちが……っ」  恥ずかしくてたまらない烈己は必死に大澄の頭へ手を伸ばし、やめさせようと暴れるが、うまく力が入らずにただ大澄の柔らかな髪を撫でるだけだった。這い上がってきた長い舌でべろりと臍の周りを舐められ、上目遣いの大澄と目が合う。  ズルいと思った──。  人のことをからかって遊んでみたり、どろどろに甘やかしてみたり、大人の余裕を見せる傍ら、たまに見せるα(オス)の眼差し──。 「俺ばっか……好きになる……」  潤んだ瞳でそっと呟く烈己の肌の上で大澄は小さく首を傾げた。 「なに? 愛の告白?」 「そうやってヘラヘラ笑うとこは嫌い」 「また嫌われた」  大澄はそう言って、ふふっと楽しげな笑みを浮かべて烈己の肌へと口付ける。    胸の尖りを何度も舌でなぶられて、烈己のつま先がくすぐったそうにシーツを掻いた。曲げられた膝の間を割って節高い指が烈己の感じやすい場所をゆっくりと愛撫しては、深い場所まで掻き回す。  はじめての時もそうだった──。  大澄に触られた場所が途端に熱を持つ。触れている指先が針みたいに烈己を刺激して、そこから全身へと快感の波が広がってすべてを溶かし、支配してゆく──。  体の奥に熱の杭が打たれて、ゆっくりと狭い場所が開かされる。その感覚にまだ慣れることはできなくて、烈己は紅潮した頬を隠すように大澄の腕に頭をぶつける。 「痛い……?」  今口を開いてしまったら、きっとおかしな声が出る。それが怖くて烈己は唇を噛んだままブンブンとかぶりを振った。  その仕草で大澄はすべてを理解したらしく、烈己には内緒で目元を緩めてこっそりと微笑む。  ゆっくりと体の中を大澄の熱が進んでゆくのが繋がった場所から伝わって、烈己は我慢できずに何度も吐息混じりに声を漏らした。  そのたびに、恥ずかしそうに唇をつぐんで耐える烈己を大澄は悪い笑みを浮かべて見つめている。いい加減怪しい視線に気付いた烈己が真っ赤な目をしたまま負けじと大澄を強く睨んだ。 「ふふ、可愛い……」 「ばか……ああっ……!」  烈己の体の強張りが緩んだ隙に大澄は自身の雄を奥へと進めた。あっという間に一番奥まで貫かれ、強い刺激に烈己の腰がピクリと弾ける。 「大澄さ……ん、まだ動かない……で」 「うん──」  大澄の形を覚えるみたいに烈己の中がぎゅうぎゅうと戦慄いては熱く吸い付いてくる。大澄はかつてこんな無慈悲な罰ゲームがあっただろうかと、目の前の御馳走を前に待てを言い渡される飼い犬の荒ぶる心情をはじめて体感する。  無神論者でありながら、涅槃寂静(ねはんじゃくじょう)の境地について大澄の思考が旅立ちかけた瞬間、深く繋がった一番奥を強く締め付けられ、大澄は別の意味で昇天しかけた。 「おふっ!」と大澄からおかしな声が漏れると、無意識だった烈己は、悪びれることなく純粋な瞳を丸くした。 「烈己〜〜っ」  今にも泣きそうな表情をして大澄が嘆くと、あろうことか烈己は肩をすくめて微笑んだ。 「大澄さん、可愛い」  その一言で大澄の紳士なα像が呆気なく天に召されたのは言うまでもなかった。  涅槃について問うにはまだまだ自分は青いようですと、大澄はさっさと自分を煩悩の海へ放ち、目の前の御馳走に牙を剥いた。
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