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「大澄さっ、だめ……っ、ゆっくりっ……」 「無理、もう無理。ごめん、聞けない」 「やっ……やだぁっ……あっ……」  普段の大澄であれば泣きじゃくる烈己の姿など放っておけるはずもなく、抱いたり撫でたり、それこそ赤ん坊のようにあやしたりと、その涙を止めるためだけに東奔西走したはずだ。  だが、今の烈己の涙は決して痛みだけからくるものでないと都合良く解釈し、長い間受けたお預けの恨みを晴らすように奥へ奥へと烈己を貪った。  嬌声がこぼれる唇を捕まえて、熱を帯びた舌で乱暴にかき混ぜ、その中までもドロドロに溶かす。 「……んっ、あっ……あぁっ……、ぁっ……」    つむった瞳から涙はこぼれるものの、あの恥ずかしがり屋の烈己から「いや」の言葉がいつのまにか消えていた。中を深く穿てば無意識に膝を折り曲げて繋がった場所を強く締め付けた。 「烈己……好きだよ……」 「んんっ……」  耳元でうっとりと囁かれるだけで烈己の全身は小刻みに震えた。  大澄の抽送が次第にはやくなり、恐ろしいほどの刺激に烈己は目を回した。脳味噌も一緒に揺らされているようなおかしな錯覚に陥り、繋がった場所から這い上がってくる快感の波に気が遠くなり、頭の中が弾けて真っ白になった。  急に怖くなった烈己がシーツに手を伸ばした時、大澄の手が先にそれを捕まえ包み込まれた。    呼吸を乱しながら烈己がうっすら目を開くと、すぐそばに大好きな大澄の優しい微笑みがあった。  何も変わらない、怖がる必要なんてない。  自分が愛してやまない彼の顔だ──。  なのに涙がまた(あふ)れてきて、烈己は思わず唇を噛んだ。 「ごめん……怖い思いさせた?」  大澄の言葉に烈己はかぶりを振って返事をする。今声を出せば絶対に泣いてしまうと思ったからだ。 「けど、無理させたね……」  優しい手が普段と同じに、ゆっくり烈己の髪をすいて頬を撫でる。瞼や鼻先に口付けられ烈己はゆっくりと息を吐いた。  大澄が自分の中からいなくなってしまう気がして、烈己は自ら大澄の手を振り払い、両手を肩へ回して前からしがみついた。 「やめないで……中にいて、お願い……俺を離さないで……」 「いいの……? 次に離してってお願いされてもできないよ」 「言わない……そんな言葉一生言わない……。──もうっ、笑うなよ!」 「だってすごい殺し文句言うんだもん。ちんこ爆発するかと思った」  驚いてまん丸に目を見開いた烈己に見つめられ「いや、しないよ? ちんこは爆発したりしない」と大澄は世界一くだらない例え話の真相について申し開きをさせられた。 「もし本当にやめて欲しいときはそう言って? 絶対に我慢しないで、それって大切なことだから」  柔らかく微笑んで話しているものの、大澄が真剣なのを理解した烈己は深く頷いた。 「よし、じゃあ遠慮なく」 「ん?」  満面の笑みをした大澄に気を取られているうちに烈己の体は簡単に引っ張り上げられ、半回転した体は大澄を組み敷いていた。 「えっなにっ」  真っ赤に全身を染め上げた烈己に構うことなく大澄は下から烈己を突き上げた。 「ひゃっ! あっ……」  ビクビクと腰が強く痙攣して大澄の雄を締め付ける。下から数回突き上げられただけで烈己は体の力を無くして大澄の胸へと倒れ込んだ。  そのせいで繋がった場所がまた別のところを刺激して烈己は腰を反らせて高い声を上げた。 「可愛い……」悪い声をした大澄が耳元で笑っているが、烈己にはもう睨む余裕すらない。  尻をきつく掴まれ、繋がった場所を開かされる。 「やぁらっ……あんっ……」  ゆっくりと中を撫でるように雄をギリギリまで引いて、烈己の中が寂しげに戦慄いた瞬間、奥まで一気に貫く。艶かしい嬌声と共に雄の先端まできつく締め付けられ、大澄は嬉しそうに顔を歪めた。 「奥っ……あっ、やっ……だめっ……めっ…………っ、ああっん……っ」  すっかり力を無くした烈己は大澄の肩に掴まって、下から迫り上がる強い刺激に体を揺さぶられながら快感に溺れた。 「烈己……」  涙で滲んだ世界で彼の瞳が真っ直ぐこちらを見ていて、烈己は思わず下唇を噛んだ。  薄く微笑む唇が合わさって、烈己はゆっくりと彼を招き入れた。 「大澄さん……すき……だいすき……離さないで……」  なめらかな頬を透明な雫が伝ってゆく艶麗な姿を眺めながら、伸ばされた白い指先を大澄は捕まえて強く握りしめた。 「絶対離さないよ──愛してる、烈己……」
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