■1 戸喫のナンチャラ

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道に、ひと気はなかった。 時間も時間だし、もともと、この辺りは閑静な住宅街で、大通りや商店街などの賑やかな地区とは、すこし離れていた。 近くにある店も、せいぜい数軒しかない。 葵が知っているのは、家庭的なフレンチを出す民家を改造したこぢんまりしたレストランと、オーガニック専門の食材屋、それに今行こうとしているコンビニぐらいだった。 それに、葵の住んでいるマンションの前の道は、細い川に沿っているので、静けさにさらに拍車が掛かっている。 今年は残暑がしつこく残っていて、9月の今でもまだ熱気をはらんだ空気だが、川から吹いてくる風は、ほんのすこしだけ肌寒い。 それを感じながら歩いていると、ふいに、上空から、ブウゥーーーン、という、蜂の羽音のようなものが聞こえた。 なんだ?と思い、夜空を見上げて目を凝らすと、なにか黒い影が飛んでいた。 ドローンだった。 50cm四方ほどの大きさの、アメンボに似た形をしていて、4本足に当たる部分の先にはそれぞれ、プロペラがついている。 なんでこんなところに?とは思ったが、それ以上の興味はなかったので、すぐに見るのをやめて、歩き続けた。 しかし、音は一向に遠くならない。 また見上げてみると、さっきと同じ距離をとって、ドローンが飛んでいた。 気のせいかもしれなかったが、なんだか、葵についてきているようだった。 ただ、なぜそんなことをされるのか、思い当たることが全くないので、すごく気味が悪い。 試しに早足になってみるが、やはり同じ距離のまま、ついてきている。 それが分かったとたん、怖くなって、ちょうど目当てのコンビニが見えてきたので、走って飛び込むように中に入った。 入口そばのガラス越しに、外を窺う。 ドローンはしばらくホバリングしていたが、やがて諦めたみたいに、飛び去って行った。 それを見てほっとする。 頭を傾げながらも、弁当を選び、必ず一緒に買いなさい、と言い含められているサラダを適当に取り、最後に飲み物を選ぶと、レジに並ぶ。 会計を済ますと、店を出る前に、念のため一度上空を確認した。 なにも飛んでいるものは見えなかった。 やっぱり、単なるいたずらや、人違いだったのだろう、と結論づけて、心穏やかに家路についていたのだが、ちょうど家とコンビニの中間地点にさしかかったあたりで、あの音がまた上空から聞こえてきた。 慌てて見上げると、またさっきのドローンだった。 待ち伏せ、あるいは戻ってきたのか。 分からない。 ただ、これで、人違い、という可能性は消えた気がした。 ここまできたら、自分が目当てと考えてもおかしくない。 ただ、どれだけ考えても、なぜそんなことをされるのか、本当にまったく心当たりがなかった。 しかも今度は、こちらを目がけて、全く減速せずに急降下して、ぶつかってきた。
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