エピローグ

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* * * *  改札を出た徳香は、こちらに向かって手を振るスーツ姿の信久の元へと駆け寄る。 「ごめんね! 待った?」 「大丈夫。俺もさっき着いたところだから」  微笑みかける信久に、徳香は胸がキュンとする。私、信久のことが大好きなんだってわかる。こんなに愛しくて仕方ないんだもの。  どうしてこの感情が恋だってことに気付かなかったのか不思議なくらい。長崎さんが言うように、私って本当に鈍感なのかもしれない。  信久は徳香の手を取ると、体育館に向かって歩き出した。  付き合い始めて二週間。二人で過ごす時間が増えるたびに、徳香はこの時間を大切にしたいと思うようになっていた。  だから今日で最後のサークルにするつもりだった。  元々出会いを求めて入ったサークルだった。続けていたのは修司のためだったし、こうして信久と付き合うことになった今、サークルに入っている理由が見つからなかったのだ。 「本当にいいの?」 「うん、いいの。本当はバスケより映画の方が好きだし……それに信久と二人でいる時間をもっと作りたいなって思って」  徳香が信久の顔を見上げて言ったものだから、信久は照れたように顔を背ける。 「……俺も徳香と二人の時間を大事にしたいな」 「本当? 信久も同じなら嬉しい」  信久はにっこり微笑むと、徳香と繋いだ手を自分のコートのポケットに入れる。二人は照れたように笑い合うと、そっと寄り添った。 「それよりわざわざ信久も一緒に来なくても良かったんだよ? 辞めるって挨拶するだけだし」 「いや、最後だからこそだよ。徳香に悪い虫がつかないようにしないと」 「そんなのないって。心配性だなぁ」  とはいえ、付き合うまではそんな素振りを見せなかったから、こういう彼の姿を見るのは嬉しかった。 「でもさ、サークルに行くの嫌じゃない?」 「なんで?」 「いや……なんていうかさ、笹原さんと長崎さんもいるし……」 「うーん、それがそれほど嫌じゃないんだよね。もう終わったことだし。それに今は信久がいてくれから、すごく心強いよ」  サークルに残る意味はないけど、信久と出会えたことには心から感謝している。ここに入ったからこそ出会えた人だもの。  それにお互い好きな人がいたから、こんなに仲良くなることが出来たのも事実。 「……徳香、今日も泊まっていい?」  言い方は普通なのに、どこか甘えたような信久に徳香は胸がときめいた。彼の可愛い一面を知るたびに、私の胸は熱くなる。 「いいけど、うちより信久の家の方が広いよ」 「いいんだ。だって徳香の部屋が好きだから。でさ、明日は俺の部屋に泊まらない?」 「……泊まる」  こんなに幸せでいいのかな……彼が与えてくれる愛情に、私はいつも安心して身を任せてしまう。 「信久と出会えて本当に良かった……大好きだよ」 「いきなりだね。でもすごく嬉しいよ。俺も徳香が大好き」  確かに私は友達から恋人になるなんて考えはなかったから、少し強引だったけど信久が気持ちを変えてくれて良かったと思う。そうじゃなければ、未だにこんなに素敵な人が近くにいたことに気付いていなかったかもしれないから。  最近思うことがあるの。今までの私は、お互いの好きなもに合わせるのが恋の形だと思っていた。それは我慢することもあって、気持ちが疲れてしまうこともあった。でも好きだからそれくらいは当たり前って思っていたの。  でも信久といるとね、同じ時間を共有して同じものを見ることが出来るのはすごく幸せなことだって思えたの。  私たちは元当て馬。でも当て馬だって愛しい人と新しい恋に落ちれば、たちまち愛され主人公に変われるということを、私はあなたに愛されて知ったの。
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