私らしくいられる時

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* * * *  映画が終わった後、通りに面したカフェで少し遅めの昼食を食べていた。  外のオープンテラスでも良かったが、七月に入って暑さも厳しくなってきたため、二人は涼しい店内を選ぶ。 「フランス映画って、なんとも言えない空気感があるよね。なんかこう、ちょっと切ない感じというか……」 「うん、俺もそれが好きなんだ」  それぞれパスタと飲み物を頼み、ようやく一呼吸つく。 「長崎さん、映画とか観るのかな?」 「聞いたら、流行のものは観るって。だからこういう映画はあまり興味ないかもね」 「えっ、でも流行のものはどこでもやってるんだよ。そっちの方が誘いやすくない?」 「……そういう考えにはならなかったな」 「時間も場所も好きに選べる方が、その後の予定とかたてやすいと思うよ」 「予定……」  急に顔をしかめて考え始めた信久に、徳香は首を傾げる。 「あのさ、信久は長崎さんと一緒にやりたいこととかないの?」 「あまり考えたことなかったなぁ」 「……マジか」 「悪い? 徳香は笹原さんとしたいことってあるわけ?」 「もちろん、いっぱいあるよ〜! 好きな人と一緒に行きたいところ、食べたいもの、そんなの語りきれないよ。あとは、ほら、イチャイチャしたいなぁとかさ」 「……わからない。とりあえずもっと話してみたいとか……あと写真を撮りたいかな」 「確かにいつもカメラ持ってるよね。カメラも趣味なの?」 「そう。息抜きみたいな感じかな。あまり見返したりはしないけど、データはパソコンにいっぱい入ってる」  徳香はニヤニヤ笑いながら信久の顔を覗き込む。 「わかった。そうやって長崎さんの写真を見返してるんでしょ?」  初めて信久が照れた瞬間を目撃し、徳香は身悶える。 「やだ、信久ってば可愛いところもあるじゃない! 恋はウキウキだもんね〜!」 「なんだよ、それ……」  そんな話をしていると、二人の元にパスタが届く。お腹を空かせていた徳香は、すぐに食べ始めた。 「社食って、こういうメニューがあったりするの?」 「まぁこんなにオシャレじゃないけど」 「いいなぁ。私もそういう生活にちょっと憧れるな〜。お財布とスマホを持って『ちょっと行ってきま〜す』とか言ってみたい」 「毎日お弁当なの?」 「うん、今時珍しいけどね。でもアレルギーの子も多いし、量もお母さんたちが調節してくれるから残す子も少ないかな。ただ私なんかは毎日作るのがちょっと面倒な日もあるけど。だから出来てる食事にありつけるのが羨ましい」 「ふーん……でも毎日作って偉いよ。俺には出来ない」  信久の呟きを聞くと、徳香は弾けそうな笑顔を彼に投げかけた。
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