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映画が終わった後、通りに面したカフェで少し遅めの昼食を食べていた。
外のオープンテラスでも良かったが、七月に入って暑さも厳しくなってきたため、二人は涼しい店内を選ぶ。
「フランス映画って、なんとも言えない空気感があるよね。なんかこう、ちょっと切ない感じというか……」
「うん、俺もそれが好きなんだ」
それぞれパスタと飲み物を頼み、ようやく一呼吸つく。
「長崎さん、映画とか観るのかな?」
「聞いたら、流行のものは観るって。だからこういう映画はあまり興味ないかもね」
「えっ、でも流行のものはどこでもやってるんだよ。そっちの方が誘いやすくない?」
「……そういう考えにはならなかったな」
「時間も場所も好きに選べる方が、その後の予定とかたてやすいと思うよ」
「予定……」
急に顔をしかめて考え始めた信久に、徳香は首を傾げる。
「あのさ、信久は長崎さんと一緒にやりたいこととかないの?」
「あまり考えたことなかったなぁ」
「……マジか」
「悪い? 徳香は笹原さんとしたいことってあるわけ?」
「もちろん、いっぱいあるよ〜! 好きな人と一緒に行きたいところ、食べたいもの、そんなの語りきれないよ。あとは、ほら、イチャイチャしたいなぁとかさ」
「……わからない。とりあえずもっと話してみたいとか……あと写真を撮りたいかな」
「確かにいつもカメラ持ってるよね。カメラも趣味なの?」
「そう。息抜きみたいな感じかな。あまり見返したりはしないけど、データはパソコンにいっぱい入ってる」
徳香はニヤニヤ笑いながら信久の顔を覗き込む。
「わかった。そうやって長崎さんの写真を見返してるんでしょ?」
初めて信久が照れた瞬間を目撃し、徳香は身悶える。
「やだ、信久ってば可愛いところもあるじゃない! 恋はウキウキだもんね〜!」
「なんだよ、それ……」
そんな話をしていると、二人の元にパスタが届く。お腹を空かせていた徳香は、すぐに食べ始めた。
「社食って、こういうメニューがあったりするの?」
「まぁこんなにオシャレじゃないけど」
「いいなぁ。私もそういう生活にちょっと憧れるな〜。お財布とスマホを持って『ちょっと行ってきま〜す』とか言ってみたい」
「毎日お弁当なの?」
「うん、今時珍しいけどね。でもアレルギーの子も多いし、量もお母さんたちが調節してくれるから残す子も少ないかな。ただ私なんかは毎日作るのがちょっと面倒な日もあるけど。だから出来てる食事にありつけるのが羨ましい」
「ふーん……でも毎日作って偉いよ。俺には出来ない」
信久の呟きを聞くと、徳香は弾けそうな笑顔を彼に投げかけた。
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