ギャップは恋の入り口

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ギャップは恋の入り口

 珍しく早めに体育館に着いた徳香は、既に準備をしている杏の存在に気が付いた。  普段なら挨拶だけ交わしていた。しかし信久のために……いや、自分のために、何か情報を集められないかと考え、声をかけることにした。  杏の隣に荷物を置くと、振り向いた杏に笑顔を向ける。 「こんばんは。長崎さん、今日早いんですね!」 「あっ、小野寺さん。そうなの、珍しく早く仕事が終わったんだ。小野寺さんも今日は早めじゃない?」 「私も同じくです」  徳香はカバンからペットボトルを取り出して一口飲むと、床に座ってストレッチを始めた。 「長崎さんはここのサークルは長いんですか?」 「ううん、まだ半年くらいだよ」 「バスケがお好きなんですか?」 「いや、全然。運動音痴だしね。友達に誘われて入ったんだけど、なんか意外と楽しくなっちゃって、気付いたら半年経ってたって感じかな」 「そうなんですか! てっきりお好きなのかなぁって……」 「運動で言ったら、小野寺さんの方がすごいんじゃない? だってずっと新体操やってたんでしょ?」 「ものが違いますけどね。でもこう見えて、東京都で五位入賞です。ちなみに言えば、ボールだけなら三位です」 「えっ! すごーい! 見てみたいなぁ。ここでも出来る?」  杏は目を輝かせながらコートを指差す。 「まぁ、出来なくはないですが……」 「本当⁈」  そのタイミングで、サークルのメンバーが続々体育館にと入ってくる。 「何々? どうしたの?」 「あのね、小野寺さんが新体操を披露してくれるんだって!」 「えっ、小野寺さんって新体操やってたの? 私も見たいなぁ」 「しかもボールの演技は東京都三位にもなったんだって! すごいよね!」  あっという間に情報が飛び交い、徳香の思いもよらぬ方向へと進み始めている。  あたふたする徳香を無表情で見つめる信久の姿も見えた。 「でも久しぶりだし……」 「軽くでいいよ! 怪我したら危ないしね」  あっ、でもやっぱりやる方向なのね。 「ほら、ちょうどバスケットボールもあるよ」 「いや、それじゃあ怪我しますから」  期待の眼差しで見られ、徳香はため息をついた。一応スパッツ履いてるし、少しだけなら大丈夫かな……。 「じゃあちょっとだけですよ。あの……誰かスピーカーとかありますか? 音楽に合わせたいので……」 「あっ、俺持ってるよ」  スピーカーとスマホを連動させようとすると、信久がやってくる。 「俺がやるよ」 「ありがとう」  スマホを操作しながら高校時代に使っていた音楽を探す。  どうしよう……さっきストレッチはしたけど、ちゃんと体が動くかな……。しかも振りつけもちょっと曖昧。まぁ適当に、無理しないように、軽〜くやれば大丈夫かな。 「大丈夫か?」  ここでは絶対に話しかけない信久が、心配そうに声をかけてくれた。 「うん、大丈夫」  信久が心配してくれたことで、少しだけ心が落ち着く。  よし、当たって砕けるつもりでやってみるか。  徳香は自分自身を奮い立たせた。
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