509人が本棚に入れています
本棚に追加
この気持ちって
あの日を境に、徳香への感情がおかしくなってきている。これって一体なんなんだ？
最近は徳香を前にすると、ちょっと緊張するんだ。心拍数が上がる感じ。それになんか彼女を手元に置いておきたくなる。徳香は誰のものでもないのに、どこかに行ってしまうんじゃないかって不安になる自分がいる。
今までは同じ趣味が共有出来る友達、『一緒にいて楽しい』くらいにしか思っていなかった。それが彼女の新しい一面を知って、こんなふうに変わってしまうなんて思いもしなかった。
信久は撮った写真をパソコンに移す作業をしていたが、徳香の新体操を披露した日の写真をつい眺めてしまう。
普段俺の前で見せる姿とは全く違う。表情は大人びていたし、彼女の醸し出す色気にドキドキした。
あの日、俺みたいに感じた奴がいるんじゃないかと考えるだけでイラッとした。
帰り際、徳香が俺のTシャツを引っ張った時は息が止まるかと思ったんだ。彼女がそっぽを向いていてくれて助かった。俺自身、あの時どんな顔をしていたかわからなかったから。
パソコンの画面には、徳香の魅惑的な表情が映し出されている。信久は思わず"印刷“の文字をクリックした。
プリンターが動き出し、徳香の写真が印刷される。それを見ながら、息苦しさを感じる。この感情は一体なんなんだよ……。
『信久ってば、あの後ずっと長崎さんの写真ばっかり撮ってたから、お礼を言うタイミングを逃しちゃったよ』
違うんだ。本当は写真を撮っていたんじゃなくて、徳香の写真を見返してたなんて言えなかった。
まさかな……まさかだよな。心に浮かんだ言葉をかき消すように、信久は写真を机の引き出しにしまう。
それから机の上に置いてあったスマホを手に取り、徳香とのメッセージ画面を開いた。
『今度の土曜日、一緒に出かけない？』
土曜日を選んだのは、次の日が休みだから。そうじゃないと仕事に支障が出るからと、徳香は早めに帰ろうとする。
送信するとすぐに既読になる。
『いいよ。今度はどんな映画にする？』
『映画じゃなくて、レンタカーでも借りて二人で遠出しない？』
『ドライブ？ いいかも！』
『じゃあさ、映画のロケ地巡りとかどう？』
『了解！ 楽しみにしてるね！』
信久は画面を見ながら照れ臭そうに笑う。
もう一度二人で会って確認しよう。もしかしたら俺の勘違いかもしれないじゃないか。徳香のギャップに戸惑っただけかもしれない。
そう思いながら、苦しくなる胸をぎゅっと握り締めた。
最初のコメントを投稿しよう！