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もしかして同類?
小野寺徳香は片手で頬を押さえながら、うっとりと目を細めた。
「やっぱり今日もかっこいいわ〜」
「徳香ちゃん、心の声がダダ漏れしてるよ」
一緒にストレッチをしていた友人の雪乃が、硬い体を必死に曲げながら苦笑いをする。それに比べ、徳香は嬉しそうに体を床に軽く倒した。
「さすが元新体操部は羨ましい」
しかし雪乃の声は全く届いていないようで、徳香は体育館のバスケットコートを走り回る男性たちを瞳を輝かせて見つめている。
「笹原さん、めちゃくちゃ素敵……」
徳香がずっと目で追っているのは、二つ年上の笹原修司だった。暗めの茶色い髪は短く切られていて、目鼻立ちの整った顔は徳香の好みだった。
「笹原さんって彼女いないの?」
「いたら私がこんなの夢中になるはずないじゃない」
「徳香なら略奪愛もありそう」
「……私のこと、どんな目で見てるのよ。でも人のものを奪ったって、幸せになれるとは思えないし。人のものになる前なら全力で獲りに行くけどね!」
「おおっ、意外と正論でびっくり!」
そう、だって私は気付いてる。笹原さんに彼女はいなくても、彼の目が誰を追っているのか……。
修司の放ったボールがコートに吸い込まれた途端、コートの中で楽しげな歓声があがる。修司はチームのメンバーとハイタッチをしていくが、ある人物とのハイタッチだけ、一際嬉しそうな表情になる。
肩までの髪の小柄な女性……あれで私より年上なんて信じられない。
二人は笑い合うと、お喋りをしながら再び走り出す。その姿を見れば誰だって察しがつく。
笹原さんは、長崎杏さんが好きなんだ。そして逆に、長崎さんも笹原さんが好きに違いない。
杏の姿を目で追っていた時、徳香はコートを挟んで向かい側でカメラを構えている男性と目が合った。
三ヶ月前、徳香と同時期にこのバスケ社会人サークルに入ってきた松重信久だった。
他のメンバーがTシャツに短パンなのに対し、必ずと言っていいほど信久は長袖長ズボンのジャージの上下、そして眼鏡。
それにバスケのサークルなのに、
「俺は記録係で」
と言って、バスケにはほとんど参加しないのだ。
だがメンバーたちは『面白い奴が入ってきた』とまったく気にしていないどころか、いじられキャラが定着してきている。
このサークルに入ってから、徳香は信久と特に接点がないため会話をしたことがなかった。
なんか変な奴って思っていたが、最近になって彼の真意がわかったような気がしていた。
笹原さんを見ていると、何故か彼とよく目が合うの。特に笹原さんが長崎さんのそばにいる時に。ということは……。
徳香は信久をじっと見つめた。彼はファインダー越しに杏を追いかける。
もうバレバレじゃない。彼はきっと長崎さんが好きなんだ。
まるで自分がもう一人いるみたいな気がしちゃう。
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