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足利織姫神社についてスマホで調べていた徳香は、気になるものを見つけた。
「へぇ。足利織姫神社って恋人の聖地で、縁結びの御利益があるんだって! これは絶対に行かないとだね!」
「そうなんだ」
「社殿の近くに駐車場はあるんだけど、下から昇ればもっと御利益があるみたい。二百二十九段の石段の男坂か、七色の鳥居を抜ける女坂か」
「せっかくだし、鳥居をくぐってみる? あぁ、でも体力使いそうだな」
「明日も休みでしょ? 何のためにバスケやってるの。行ってみようよ!」
「いや、俺はバスケやってないし」
「口ごたえしないの!」
徳香に言われるがまま、女坂の近くの駐車場に停めると、二人は荷物を持って歩き出した。
男坂の階段と違い、女坂は山道に近い。それでも徳香はやる気満々だった。
「カラフルでかわいいねぇ」
七色の鳥居をくぐりながら、徳香は歓喜の声をあげる。しかしやはり悪路に苦戦し、少しずつ息も上がってくる。
信久は振り返ると、徳香にそっと手を差し出した。
「繋いでく? 何なら引っ張ってあげてもいいよ」
「やった! 持つべきものは友達だね!」
「はいはい、友達ね……」
手を繋いで社殿のある場所まで登りきるが、信久は手を離そうとはしなかった。
離すの忘れてる? まぁいっか。幼稚園でも子どもと手を繋ぐのは慣れてるし、相手は信久だしね。
手水舎を前にしてようやく手が離れる。手を洗ってから、社殿に向かう階段を登り始めると、徳香は嬉しそうに声を上げた。
「この階段! あの映画に出て来たところだよね!」
「本当だ。確かにあのシーンだ」
二人は朱色の美しい社殿の前に立ち、手を合わせてお参りをする。
徳香は修司の名前は唱えなかった。笹原さんは私が好きな人で、いつか好きになってもらえたらこんなに嬉しいことはない。でもそんな日が来ないことはわかってる……。
今すぐ諦めるわけではないけど、いつか自分だけを愛してくれる人と出会いたい……報われない恋をしていると、そんな願いも抱いてしまう。
お参りを終えて歩き出した二人の前に『恋人の鐘』が現れた。
「こういう鐘って、『恋人の聖地』には必ずあるよね」
「やったことある?」
「昔ね。あまり意味なかったけど」
「まさか……元カレ……とか?」
「うん」
そう徳香が呟くと、信久は急に立ち止まり、口を手で押さえて下を向く。
「どうしたの?」
信久の顔を覗き込むように見上げた徳香は、突然手を掴まれ恋人の鐘のところまで引っ張られていく。
「の、信久?」
「せっかくだからさ、やろうよ」
すると徳香は怪訝そうな表情を浮かべる。
「……なんで私と信久が?」
「あっ、やっ、だからっ……ほらっ、お互いの恋の成就を願って! 二人なら御利益も倍増しそうじゃない?」
いつになく必死な信久を見て、彼の願いの強さを感じる。
そんなに長崎さんのことを想っているんだ……私も何か協力出来ればいいのにと思うけど、今は二人の幸せを願うしか出来ない。
「そうだね。じゃあ二人分の願いを叶えてもらおう」
二人は鐘の下に立つと、互い違いにロープを掴み、そっと鐘を鳴らす。高い鐘の音が響き渡っていく。
「長崎さんと信久が近付けるように、私も何か手伝うから言ってね!」
意気揚々と話す徳香に対し、信久はどう答えていいのかわからず固まってしまった。
「ねぇ、さっきお蕎麦屋さんがあったよね。お昼食べようよ」
「う、うん、そうしよう」
違うんだ……そうじゃないんだよ……。
一歩前を歩く徳香の背中を見ながら、信久は混乱する頭をどうにか落ち着かせた。
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