この気持ちって

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* * * *  食事を済ませた二人は、再び車に乗り込み、あしかがフラワーパークに到着した。  藤の花の見頃は過ぎていたが、代わりに薔薇や睡蓮が人々の目を楽しませている。  池に掛かる桟橋を歩きながら、信久は首にかけたカメラを構えると、ファインダー越しに徳香の姿を捉えた。  花を見て喜ぶ笑顔、何かを見つけた時の驚いたような横顔、水面に向けるうっとりとした表情を、何枚もカメラに収めていく。  その時、振り向いた徳香が口を尖らせ、不愉快そうに信久を見た。 「……話しかけても返事がないと思ったら……」 「あぁ、ごめん。写真撮るのに夢中になってた」 「花の写真?」 「いや、徳香の写真」  信久が言うと、徳香は恥ずかしそうに顔を真っ赤に染めたものだから、彼は慌ててシャッターを押す。 「やだっ……変な写真は撮らないって約束したでしょ⁈」 「変な写真なんか撮ってないから大丈夫」 「……絶対にやめてよ」 「わかってるよ」 「……っていうか、写真って本気だったんだね」 「もちろん」  徳香は信久に寄りかかると、カメラの画面を覗き込む。その瞬間、信久の体が驚きに震えた。  信久はゴクリと唾を飲み込む。鼓動が速くなるのを感じた。 「徳香……あざと過ぎ……」 「はぁっ⁈」 「笹原さんにそうやってやればイチコロじゃない?」 「……やったことあるけどダメだった。こういうのは笹原さんの好みじゃないみたい」 「……じゃあなんで俺にやるの?」  困ったように話す信久を見て、徳香は笑い出す。 「別に何も考えてなかった。写真見せてって言おうとしただけ。まさか意識しちゃった?」 「……す、するわけないだろ」 「そう言うと思った。どうせ私のこと、女として見てないでしょ? 長崎さんとは正反対だもんね」  その時の徳香の表情がどこか寂しそうに見えた。 「……別に長崎さんと比較しなくてもいいと思うけど」 「……どういうこと?」 「徳香は徳香だろ。俺はそういう徳香らしいところ、結構好きだけどな」  『好き』と口にしたことが急に恥ずかしくなって下を向いてしまう。今まで似たような状況になっても、そんなこと口にしたことはなかった。『悪くない』と言ってきたのに……。  すると徳香ははにかみながら頬を染める。 「信久って本当にいい奴だよね。私も信久のそういう、さり気なく優しいところが好きよ」  『好き』と言われても満たされないのは、これが友達として、人間としての『好き』だから。  あぁ、そっか。やっとわかった。ようやく自覚した。俺は徳香に恋してる。徳香のことが好きなんだ。  俺の心は、徳香からの本物の『好き』を欲してる。君が欲しくてたまらない。
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