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恋のレクチャー
信久はいつもより早めにデスクを離れると、社食に行く前に総務部に向かった。
ぞろぞろと外に出てくる人の中から杏を見つけると、信久から駆け寄っていく。
「長崎さん!」
振り返った杏は驚いたように信久を見た。
「松重くんじゃない。会社で声をかけてくれるなんて珍しいね。どうしたの?」
いつものように笑顔で応えてくれた杏に、信久はどこか安心した。というのも、信久は自分から話しかけるような積極性を持ち合わせていないため、かなり勇気のいる行動だったのだ。
「あのっ……ちょっとお話ししたいことがありまして……」
信久の言葉を聞いて杏は頷くと、一緒にいた同僚たちに断りを入れる。女性たちが興味津々という目で信久を見たため、信久は気が引けてしまった。
「じゃあ行こっか」
「あ、ありがとうございます」
頭を下げると、二人は人目を避けるように階段遠降り始めた。
* * * *
会社から出た二人は、ランチもやっている居酒屋に入る。半個室の席に案内され、それぞれ定食を頼むと改めて向き合った。
「今日は突然すみません……」
「ううん。どうしたの?」
信久は杏の顔を見ながら、自分の中の変化を確信した。長崎さんはやっぱり可愛い。でも前みたいなドキドキ感はなく、どちらかというと憧れに近いような想いに変わっていた。
「実は長崎さんにお伝えしたいことがあるんです」
彼の緊張した空気感を察し、杏も少し身構える。
「俺……ずっと長崎さんのことが可愛いなと思って、話したい、出来ればお近付きになりたい、そう思ってサークルに入ったんです。長崎さんのことが……たぶん好きでした」
杏は驚いたように目を見開いた。
「えっ……私のことが好きだったの?」
「はい」
「全然気付かなかった。しかも既に過去形?」
「あはは、そうなんです」
信久が答えると、杏は吹き出した。
「なんて答えたらいいのかわからないんだけどなぁ」
「いえ、何も言わなくていいです。今日お伝えしたのは、自分の気持ちにケリをつけるためなので」
その言葉で、杏は信久の言いたいことを察すると、ニヤニヤしながら彼を見つめ直す。
「……わかった。もう好きな人がいるってことね?」
信久は照れたように頷いた。
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