もしかして同類?

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 映画を観ている間、二人とも隣に相手がいる事を忘れて集中していた。 「ヤバい……いつも通り観ちゃった。っていうか、お互い無の境地だったよね」 「確かにね」  もっと話したいと思ったのに、映画の間はつい黙ってしまう。徳香は思わず信久のスーツの裾を引っ張った。 「あの……良かったらもう少し話さない?」 「……小野寺さん、明日は仕事?」 「えっ、ううん、休みだよ」  徳香が言うと、信久は先ほどと同じように柔らかく笑う。 「なら、ちょっと飲んでく?」 「いいね、そうしよう!」  二人はショッピングモールを出て、駅に向かう途中にある居酒屋へと入っていく。半個室の席へと案内され、二人は向かい合うように座った。  お互いにビールを注文し、初めての会話を乾杯で祝った。 「松重さんって、この辺りが最寄りなの?」 「そう。職場には電車で一本で行けるし、何より映画が観たいと思ったらすぐに来られるからね」 「いいなぁ。私もそうしたかったけど、この辺って家賃高めじゃない? 幼稚園教諭のお給料じゃ無理だったから、諦めて二つ隣の駅にしたの」 「あぁ、小野寺さんって幼稚園の先生なんだ。確かにそれっぽい」  そう言われて、徳香は頬を膨らませると、プイッと顔を背けた。 「どうせ元気すぎるとか、落ち着きがないとか言うんでしょ? もう言われ慣れてる」 「へぇ、そうなんだ。でも子どもたちにとっては、元気で明るい先生って嬉しいんじゃない?」  信久は顔色を変えずに淡々と話しているが、その言葉が徳香は嬉しかった。 「松重さんは? どんなお仕事してるの?」 「俺? 普通の会社員だよ。人事の鬼に毎日しごかれてる」 「あはは! なにそれ。でもちょっと人事っぽいかも。なんかメガネが秀才っぽいもん」 「うん、それよく言われる」 「ご、ごめんね! 嫌だった?」  徳香は慌てて信久に頭を下げる。しかし彼は不思議そうに彼女を見つめていた。 「なんか小野寺さんって、サークルにいる時と印象違うね」 「そうかな? っていうかどんな印象なの?」 「……あざとい感じ?」 「……あなたね、本人目の前にしてはっきり言い過ぎじゃない?」  徳香が頬を引き攣らせながら言うと、信久は突然笑い出す。 「な、何よ……」  最初は抵抗しようとした徳香だったが、何故かつられて笑い始めてしまう。 「バスケの時って、かなりぶりっ子してるよね。やっぱり笹原さんを狙ってるから?」  その瞬間、徳香は凍りついた。  そうか、気付いていたのは私だけじゃなかったんだ。彼もまた、私のことを"笹原さんに片想いする女"として見ていたんだ。 「そりゃそうよ。そういうあなたはどうなの? 長崎さんの写真はたくさん撮れてる?」  徳香が言うと、今度は信久が凍りついた。やっぱり私の勘違いじゃなかったみたい。  
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