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帰りの電車の中で、信久はスマホの画面を見つめたまま考えに耽っていた。
週が明けてしばらくは、夜のちょっとしたメールを送るくらいで、電話はしなかった。だってあまりしつこいのも良くないし、かと言って心配してないと思われたくなかったから。
なんか毎週末誘ってるけど、これってどうなのかな。今までは友達として遊んでいたけど、このまま行くと、ずっと友達止まりのような予感すらする。
そんなことをしている間に新しい男が出現したらどうする⁈ いや、そうならないために徳香の予定を埋めておくのも大事なことかもしれない。
よし、とりあえず土曜日に誘ってみるか。
信久は徳香にメッセージを送る。
『週末って予定ある?』
するとすぐに返事が返ってきた。
『土曜日は飲み会に誘われちゃったから、日曜日なら大丈夫』
飲み会? 信久は動揺して、思わずスマホを落としそうになる。
今まで徳香が飲み会に行くなんて聞いたことがなかった。というか待てよ。このタイミングで飲み会って……まさか俺が危惧していた新しい出会いのための飲み会なんじゃないのか⁈
『へぇ、珍しいね。女友達と?』
なんとか冷静を装いながらメッセージを打つ。
『サークルにいる大前雪乃ってわかる? その子に誘われて。男女十人ずつくらいで飲むらしい』
ああ、恐れていたことが現実になってしまった……信久はがっくりと項垂れた。それは飲み会という名の合コンだと徳香に伝えたい。いや、伝えたところで何になる。それよりもこんなふうに落ち込んでいたって仕方ない。何か手を打たないと……。
『そうなんだ。実は俺も土曜日は飲み会。ちなみに場所はどこ?』
『新宿の居酒屋』
『偶然。俺も新宿』
そんな予定入ってないのに、つい嘘をついてしまった。いや、嘘を真にすればいいじゃないか。
すると、徳香から思いがけないメッセージが届いた。
『そうなの? もし終わる時間が同じだったら、一緒に帰らない?』
な、なんだって……ヤバい。嬉しすぎて、危うく電車の中で叫んでしまいそうになる。飲み会よりも、俺と帰る方を優先してくれるのか?
そうだ。徳香が誰かと一緒に帰るのをまず阻止しなければ。
『いいよ。じゃあ終わる頃に連絡して』
それに対して"OK"の可愛いスタンプが返ってきた。つい顔が綻んでしまう。
俺って徳香に振り回されっぱなし。でもこんな感覚、長崎さんにはなかった。これが恋なんだな……胸が苦しくて仕方ない。
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