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同じ居酒屋だったのは、本当に偶然だった。店に入った時に、やけにうるさいグループが居るなぁと思っていたら、その中に徳香を見つけてしまった。
それからずっとソワソワしながらその様子を見守っていた。だから徳香が男に言い寄られているのを見て、信久は慌てて立ち上がり、彼女の元に走ったのだ。
牽制するように存在感を示してから元の席に戻ると、友人たちは必死に笑いを堪えている。
「あの子がマッツンが狙ってる子なの? 今の牽制の仕方……笑いが止まらない……あはは!」
「……別にいいだろ」
「それにしたって、やっぱりシゲちゃんの引きって強いよね。たまたま見つけた店にいるなんて。普通はないよ」
「そうなんだよ。俺って昔からラッキーボーイだからさ。感謝しろよ、マッツン」
楽しそうに話す二人をよそに、信久はそれどころではなかった。
徳香の飲み会に合わせて、幼稚園の頃からの幼馴染みの二人を誘った。二人とも今は彼女がいないこともあり、誘えば来てくれる。
「それにしても、今までマッツンが好きになった人とちょっとタイプが違うよな」
自らを"ラッキーボーイ"と言った茂松一成が、徳香を見ながら不思議そうに呟く。
「俺も思った。今までって結構清純派というか、落ち着いた感じの人が好きだったよね。あの子はなんていうか、見た目ちょっと派手だし、元気いっぱいって感じ」
やや小柄で穏やかな口調の八代優樹も一成の言葉に同調する。
「派手ってなんだよ。超絶可愛いの間違いじゃないのか」
「はいはい。でもあんな子とマッツンが合うの?」
「だって趣味が同じだし」
「でもそんな子いっぱいいたじゃん。まぁみんな上手くいかなかったけど」
「徳香はちょっと違うんだよ。見た目と中身のギャップがハンパない」
二人が爆笑するのを、信久はイラッとしながら聞いていた。
「で? どういうところが好きなわけ?」
「……まず可愛い。ああ見えて新体操が得意で、その時の色気がヤバい。甘え上手。頑張り屋さん。仕事に一生懸命。気遣いが出来る。あとは……」
「もういいって! ヤバっ、ベタ惚れじゃん! ヤッシー、聞いたか?」
「笑いが止まらない……あはは!」
「お前らな……」
「だって……マッツンの口から『甘え上手』とか『頑張り屋さん』なんて単語が出るなんて思わないじゃないか! ウケる!」
信久は無言のまま枝豆を食べ続けている。だが視線は徳香を捉えたまま動こうとしない。しかし彼女がトイレに立ったのを見て、ようやくホッとしたように二人の方を向いた。
「告白はしないの?」
優樹が聞くと、信久はため息をついた。
「彼女、この間失恋したばっかりだからね。まだ早いかと思って」
「ふーん……」
その時にトイレから出てきた徳香が飲み会の席には戻らず、信久の方へ歩いてくるのが見えた。
信久の心臓が高鳴る。まさかこっちに来るのか? もしそうなら、あちらの席には返したくない。このまま彼女を独占してしまいたかった。
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