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白いブラウスにブラウンのざっくりニットを重ね、ベージュのシフォンスカートを合わせた徳香を見て、信久は胸が熱くなった。
こういう場でスカートなのは妬けるが、やっぱり可愛い。
「どうしたの?」
信久が問いかけると、徳香は困ったように笑った。
「急にごめんね。あの……あそこに戻りたくなくて……。あっ、お話し中すみません!」
徳香は一成と優樹に頭を下げる。すると二人は驚いたように手を横に振る。
「全然! もし良かったら、こいつ連れてっちゃっていいですよ!」
「本当は帰りたいんでしょ?」
優樹の言葉が図星だったのか、徳香は苦笑いをする。
「でもせっかく皆さんで飲んでるところなのに……」
申し訳なさそうに呟く徳香に、二人はニヤッと笑いかけた。
「大丈夫ですって。俺たちいつでも会えるし」
「そうなんだ。二人とも幼稚園からの友達でさ、いつでも会えるんだ。どうする? 帰りたいなら送るよ」
二人の言葉に背中を押され、信久はテーブルにお金を置くと、ジャケットを手に取り立ち上がった。
その行動の早さに徳香はあたふたしたが、二人の友人は笑いを堪えられず吹き出した。
「あの……本当にすみません。ありがとうございます!」
「いえいえ」
「徳香、上着は?」
「向こうの席に置いてきちゃった。取りに行っていい?」
「一緒に行くよ」
「あっ、うん。じゃあ失礼します」
徳香は二人にお辞儀をすると、信久と一緒に席に戻っていく。その背中を見ながら、一成は笑いが止まらなくなる。
「あんなマッツン、初めて見たな。もう彼氏ヅラじゃん。最後俺たちのこと全然見てなかった」
「しかも、めちゃくちゃいい子だったね。確かにギャップあり過ぎ。あれはかなり本気と見た」
そう言いながら、二人は声を上げて笑い出した。
* * * *
背後から聞こえた笑い声に、徳香は驚いたように肩を震わせてから、つられて笑い出す。
「やっぱり幼稚園から一緒だから? すごく仲良しな感じ」
「まぁ長い付き合いだからね」
「へぇ、幼馴染ってやつだね。なんかいいな」
徳香が席に戻ると、先ほどの男はもう別の女性に声をかけていた。どうせ誰でも良かったわけね……呆れたものの、いなくなっていたことに対して安堵する。
椅子にかけてあった薄手のコートを手に取り、隣の席の雪乃の肩を叩く。振り返った雪乃は、信久を見て苦笑いをした。
「やっぱりそうなっちゃうんだ」
「どういうこと?」
「なんでもない。もう帰るの?」
「うん、ちょっと飲み過ぎたし、信久が送ってくれるって言うから」
「わかった。気をつけてね。また連絡するよ」
財布からお金を出して雪乃に渡すと、徳香は手を振りながら信久と二人で店を後にした。
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